二輪ロードレースの最高峰MotoGPクラスで、5度チャンピオンを獲得したマシン、YZR-M1。この究極のマシンの血統を受け継ぎ、スーパースポーツモデルの新たな可能性を指し示すのがYZF-R1である。
180°クランクにより等間隔で爆発する並列4気筒エンジンでは、ピストンの位置によって起こるクランクシャフトの回転変化により慣性トルクの変動が発生する。この変動はシビアなコントロール性を追求していく中で、リニアなトラクション特性を阻害する「ノイズ」と認識されるに至った。そこで隣り合う1番と2番、3番と4番のクランクピン位置をそれぞれ90°位相させ、慣性トルクを気筒間で相殺することによりこのノイズを除去、スロットル操作に対しより忠実な駆動力を引き出すのがクロスプレーン型クランクシャフトである。
このクランクシャフトでは爆発間隔が270°、180°、90°、180°と不等間隔での爆発となることで、タイヤが路面に食いつき蹴る感覚…トラクション感を得られ、低中回転域ではリニアかつパルシブに、中高回転域ではリニアで抜ける様な鮮明感を持ちながら扱いやすいトルクを絞り出している。
クランク以外でも軽量なアルミ鍛造ピストンや、ライナー部を持たずセラミックコンポジットメッキのシリンダー、破断分割式(FS)浸炭コンロッド、ファンネル長の切り替えにより最適な吸気脈動を生み出すヤマハ電子制御インテーク「YCC-I」、ヤマハ電子制御スロットル「YCC-T」、ツインインジェクター方式のレスポンスに優れた特性を引き出すフューエルインジェクション(FI)などによって、G.E.N.I.C.H.の最新技術思想を体現したものとなっている。
ライダーのアクセル操作を検知して最適なスロットルバルブ開度をECUにて瞬時に演算し、モーター駆動のスロットルバルブによって吸入する空気量を制御するYCC-Tの仕組みを活用することで、標準モードに加え2つのモード「低中速域でよりスポーティなエンジンレスポンスを楽しめるAモード」「より繊細なスロットル操作が必要に場面など、穏やかなレスポンスを発揮するBモード」が選択できる、D-MODE切り替え機能を搭載した。
アルミ製のデルタボックスフレームは基本構成を踏襲しながら、形状とサイズ、アルミの材質、剛性バランスなど全てを見直しを行なった。フレームを構成する部材は、ヘッドパイプからフロント懸架廻りにかけてとピボット廻りに重力鋳造品、タンクレールは外側に成形の自由度が高く肉厚を細かくコントロールできるCFダイキャスト製法による鋳造品と、内側にプレス加工された展伸材パネルの組み合わせるなど、各部の特性にあった材質と製法を駆使。横剛性を相対的に低く設定することで高速安定性とトラクションを効率的に引き出す旋回性を高次元にバランスさせたフレーム剛性を実現している。
リアアームもピボット廻りに重力鋳造、アームとエンド部をCFダイキャスト製法による一体構造とし、各部に求められる強度と剛性のバランスを高い次元で実現している。
エンジン搭載位置については各部との相互位置関係を見直し最適化。前モデル比で9度起こし31度のシリンダー前傾角とすることでドライブ軸を12mmフロントに近づけ、前輪の接地感を向上させている。また重心位置、ピボット位置などmm単位で最適化することで、加速時のチェーン張力でリアサスペンションのストロークさせ、良く動いて駆動力を伝達する「R1の脚」を進化させている。
このほかCFマグネシウムダイキャスト製法によるリアフレーム、プレス成形3Dシミュレーション解析技術によりフレーム枠内に納まる縦長形状のフューエルタンクなど、さらなるマス集中化を押し進められた。
インナーチューブ径43φの倒立式フロントフォークは、圧側減衰力を左側、伸側減衰力を右側のフォークが独立して担当する左右分担減衰力発生方式を採用。
この方式では減衰力発生用のオイルの流路をシンプルな構造とすることができるので、連続作動時のオイルへのキャビテーション(エアの混入)を最小限に抑え、減衰性能の安定化を図ることができる。また圧側・伸側が独立しているため、従来のものよりセッティングも容易である。
さらに従来に比べ圧力変動の安定と流量確保により僅かなストロークでも素早い減衰力の初製が可能となり、優れた路面追従性と接地感を生み出している。
一方のリアショックアブソーバーは、ライダーの好みや走行シーンに応じて最適な特性を引き出せる、圧側の減衰力を高速側・低速側それぞれ別々のバルブで調整する2WAY圧側減衰力調整機能を装備。
また最適なレバー比を求め、リンクの取り付け部をピロボールとしてショック吸収性、接地感、ダンパ応答性を向上させ、リンク方式もボトムリンクとしてリンク比の最適化を図っている。これにより120mmのストロークを効率良く活かすことが可能となった。
ボディは、これまでの前後に流れる様なプロポーションから、マス集中感・凝縮感とともにトラクション特性を視覚的に表現した、リヤタイヤ主体の新しいデザイン造形を採用。
またシンプルかつ大胆に面を使ったミドルカウルは、空力特性とライダーのエアプロテクション効果など「車体側面の空気の流れ」とエンジンを冷却する導風系の「カウル内側の空気の流れ」の2つを、階層構造(レイヤー)としてデザイン的に織り込んで表現している。
フロントカウルはヘッドライトとエア吸入口を一体化したYZF-Rシリーズ共通の斬新なマスクを形成している。またヘッドライトは市販二輪車初となるソレノイド駆動によるHi/Lowビーム切り替え式プロジェクターヘッドライトを採用している。
2011年モデルはカラーリングを変更、スカル柄のディープレッドメタリックKは受注期間限定(※受付は終了しました)の設定となっている。