これまでの排気量区分による概念を一旦捨て去り、排気量枠にとらわれない次世代ロードスポーツの姿を原点に立ち返って検討。高い実用性とスポーツ性それぞれの課題にきちんと向き合うことで「Best active middle sports」をキーワードとして779ccという新たな排気量を導き出し、ロングツーリングからワインディングロードでのスポーツ走行まで対応し、走りのエキサイトメントを具現化したストリートマシン、それがFAZER8 ABSだ。
YZF-R1の血統を受け継ぐFZ1のエンジンをベースとしながら、779ccの排気量ならではのキャラクターを具現化するために専用パーツを装備。
口径を9mmダウンさせたセラミックコンポジットメッキのシリンダーは、ボア・ストローク比を1.268とややロングに振ることで狙ったトルク値を確保、ストロークは53.6mmとFZ1同一ながらクランク慣性マスを最適化したクランクウエブ形状としている。
シリンダーヘッドも専用設計でバルブは吸気側26mm径×2本、排気側22mm径×2本の4バルブ。ペントルーフ型燃焼室はバルブの挟み角26度で、専用アルミ鍛造ピストンと組み合わされ圧縮比は12.0:1、専用プロファイルのカムシャフト、最適レシオ設定の6速ミッションとともに幅広いトルク特性と良好なピックアップを具現化している。
YZF-R1(2004年型)やFZ1などで実績のあるサブスロットルバルブ併用のF.I.を採用。アクセルにより35mm径のメインスロットルバルブを作動させ吸入空気量の制御を行い、回転数・スロットル開度の情報をECU経由で反映してモーター駆動によりサブスロットルバルブを駆動、回転全域での体積効率の最適化が図られる。
ポート壁面へ向かって4孔から2方向で噴射されるシーケンシャルの高ダイナミックレンジ型インジェクター、軽量リターンレス配管として小型化を図ったインジェクターへの燃料供給系とともに、優れた環境性能を確保しながらFAZER8 ABSのキャラクターを際立たせる、特に低中速での優れたドライバビリティに貢献している。
吸気系は大容量7.8Lのエアクリーナーボックス内に吸気マニホールドへ向かう新気に脈動を与える役割を果たすファンネルが収められる。
FAZER8 ABSではファンネル長を1・4番側を125mm、2・3番側を150mmと外・内各2気筒に差をつけることにより、相互にトルク特性を補完させ全域で優れたトルクカーブを形成している。
排気系は新形状となったマフラーによって、優れた排気効率・マス集中化・心地よい排気サウンドなどを実現。
また35mmのエキゾーストパイプ4本の集合部に、排ガスから白金・ロジウムの酸化反応によりCOやHCを、ロジウムの還元反応によりNOxを浄化するハニカム型三元触媒を装備。エキゾーストパイプに設けた排気ガス中の残留酸素濃度を検知するO2センサーからの情報をFIの燃料補正に反映し常に最適空燃比で燃料供給を行うフィードバック制御とともに、EU3規制をクリアしている。
現行FZ1と同一スペックのフレームを採用。重量あたりの剛性値が高く剛性バランスに優れるアルミ製メインフレームは、ピポット周辺及びヘッドパイプ周りのアルミ材の肉厚を段階的にミリ単位で設計、縦・横・ねじれ方向の最適バランスを図り、リヤピポット周りもアルミ製金型鋳造技術を用いてメインフレームに溶接する構造とすることで要求される高い剛性を確保、高次元でスポーティなハンドリングを達成している。
またYZF-R1やFZ1同様、エンジンを車体強度メンバーとして活用するため、エンジン後方クランクケースの上下4箇所とシリンダーヘッド背面の左右2箇所の、計6箇所でリジッドマウントされる懸架方式を採用。優れた縦剛性と高い旋回性、制動時の安定性に貢献している。なおシートレール部を含むリヤフレームは専用設計のスチール製である。
キャスター25度、フォークオフセット25mmのディメンション、アルミ製アンダーブラケット、ハンドルクラウンなどFZ1スペックを受け継いだフロント廻りは、インナーチューブ径43mmの倒立式フロントフォークを採用。2013年モデルではプリロードと伸び側・圧縮側それぞれのダンパーに調整機能が加えられ、よりモデル特性とライディングの条件にマッチしたクッション性とダンピング感を獲得している。
リヤ廻りのリンク式モノクロスサスペンションも、従来のショックアブソーバーのプリロード調整に加えて伸び側ダンパーの調整機構を装備、初期〜通常領域から深くストロークするにつれてプログレッシブな特性で作動するリンク機構と、走行中のチェーン張力による駆動力への干渉を最小限に抑えるアーム長629mmのCFアルミダイキャスト製リヤアーム、これらのコンビネーションによって日常ユースからワインディングまで多彩な環境で、より高次元の軽快かつリニアな操縦性と優れた旋回性を実現している。
FAZER8 ABSでは液圧制御にリニアソレノイドバルブを採用し、状況変化に応じて滑らかで最適な液圧コントロールを行うことで違和感の少ない自然な制動フィーリングを実現した、リニア制御ABS(3ポジションABS)を搭載。パニックブレーキなど緊急回避時のブレーキ操作をアシストし、より高い安全性を追求している。
デザインコンセプトは「マスフォワードフォルム」。それは100mのランナーがスタートダッシュする瞬間のような、凝縮されたエネルギーが前へ解放される造形をイメージして前に動きそうな印象を与え、ストリートでのパフォーマンスの高さや、きびきびと軽快に走る様子を表現している。
専用ヘッドライトがビルトインされたハーフカウルを装備したFAZER8は、優れたウインドプロテクション機能により、長距離ツーリング時のライダーの疲労軽減と快適性を実現。
燃料タンクは前後長が短くニーグリップ部を深く絞り膝の内側のフィッティング感を強調しながら容量17リットルを確保したニューデザインで、同じく形状を見直し新設計されたシートとともに足付き性向上に貢献している。
これらに連動してFZ1と比較してハンドル位置で2.5度、フットレストも15mm後ろで10mm低い位置とするなど、コンパクトで自由度の広いライディングポジションを実現するため細部にわたりリファインが行なわれた結果、ゴー/ストップの繰り返される街中でもライダー自らの手足の様な軽快な操作感と一体感を獲得している。
2013年モデルはカラー・グラフィックの変更(SMXはホイールに赤色ピンストライプを設定)、シート表皮の変更、フラッシャーにクリアレンズを採用するなど、細部の質感を高めた造りとなっている。またMNM3にはホイールやエンジンヘッドカバーにブルーを採用し、精悍なイメージとしている。