2018.04.24

Rの思想(後編)
初代YZF-R1開発陣が語るYZF−Rシリーズのフィロソフィ

YZF-R1



この記事は、モーターサイクルマガジン「ヤングマシン」の編集部より、当時の取材記事や写真が特別に提供され作成されています。

YZF-R1の登場、それはあまりにも衝撃的だった。従来の市販車からは考えられない軽さとパワーのバランス、そしてハンドリング。一躍ベストセラーへと上り詰めたのも理解できる。これに続くR6とR7もやはり衝撃的だ。どうしてここまで徹底的に作り込んだのか、果たしてRシリーズとは何なのか。開発陣へのインタビューを通じ、Rを貫く思想を徹底検証する。

前編はこちら

これで文句ないだろう!
物理的限界まで詰めたエンジン前後長

新たなヤマハのフラッグシップとして開発がスタートしたR1に与えられた命題は、ヨーロッパでナンバーワンのスーパースポーツになるということだけだった。
そのためにまずはエンジン型式から模索し、ツインでいくか直4で行くかという議論も行われた。最終的には高回転域のエキサイトメントを重視して直4を選び、軽さとパワーのバランスで排気量を1000ccに決定。直4のほうがエンジンと車体を融合させやすいというメリットも大きかった。
完全な新設計エンジンを作れるとあって、当初は最高出力を追求する方向も考えたが、最高速度は260〜270km/hも出れば十分。それより軽くてコーナーを速く走れるマシンに使用という声が大勢を占める。また、単に出力が出ているだけでは思いのほか良い評価が得られないことが多いので、車体に載せたときに高い評価が得られるエンジンを目指して、双方の設計者が緊密に話し合いながら開発は進められていった。
「初期に設計したエンジンは従来よりだいぶコンパクトだったんですが、それでも車体の担当者からもっと短くしろと要求が来たんです。それで、物理的にもうこれ以上詰められないところまでドライブスプロケットの位置を前に持ってきました。これで文句ないだろうってね」(島本氏)
こうして究極ともいえるほど前後長が短いエンジンと現在の3軸レイアウトが生み出される。それと同時に、ホイールベース1400mm以内、スイングアームはその4割程度の長さにするという当初からの目的も達成した。
また、軽くてコンパクトで剛性も高いという機能面を優先し、一体式のアッパークランクケースとメッキシリンダーを採用。新たにメッキの設備を導入したり工作機械を新調するなど、多額の投資も行った。

低/中/高速コーナーそれぞれに
エンジンのトルク特性を合わせ込む

もちろん、5バルブとEXUPの導入についても議論があったが、結局はトルクの厚さとハイパフォーマンスを両立させるため、重量とコストがかさむのを承知で採用することにした。
「このふたつはヤマハ固有の技術ですし、もしR1に追従するライバルが現れても追いつけないようにしたかった。それで採用したんです」(三輪氏)
5バルブでピークを出しEXUPが低中速トルクを増強。あえて3段階にトルクが盛り上がるようにして、これをコーナーの立ち上がりで使えるようにしたのがユニークなところだ。
コーナーに入ってチェーンのたるみを取って、立ち上がるときにグーンと来る。場合によってはフロントを持ち上げながらグワッと来る領域を5000、7000、1万rpm付近に設け、それぞれが低速、中速、高速コーナーの立ち上がりで使えるようにしているのだ。このあたりも、いかにエキサイトメントとコーナリングにこだわっているかを表している。
最高出力についても意見が分かれた。120ps台でも十分にエキサイティングなコーナリングが味わえるので、これでいいという設計者もいたが、スーパースポーツにとって馬力はやはり大きな魅力。そこでクラス最強の150psを確保し、これをいかに味わってもらうかに心血が注がれた。
「馬力は自然と出てしまうので、ロングストロークにしてバルブやポートの径、カム開度も小さくして、全てをコントロール性重視、レスポンス重視の方向で設計しました」(島本氏)
だからこそ、これだけの馬力を操る醍醐味が味わえるのである。
車体面は軽さと同時にかっこよさ、ライダーがアクションしてコーナーを駆け抜ける楽しさを優先。図面主義ではなく、実験担当(テストライダー)の意見を積極的に取り込んだ。
ロングスイングアームは最初から採用が決まっていたが、サスペンションやブレーキの仕様などは実験を通じて煮詰められていく。さらに、軽量化も徹底的に行った。そのため工場の各セクションに目標重量を決めて取り組んでもらい、ホイールやカウル、タンクをはじめ全ての部分で新たなトライを行ったという。
こうして妥協を許さず作り込まれたR1は、デビュー後たちまちベストセラーに名を連ねたのである。
(文:牧田哲朗)


 

この記事はビッグマシン誌・‘99年1月号「YZF-Rシリーズの全貌」より、開発者へのインタビュー部分を抜粋・再構成したものです。‘98年に登場した初代R1を筆頭に、‘99年登場の初代YZF-R6、そしてスーパーバイクレースのベース車であるYZF-R7についても触れた内容となっています。

 

〈文責〉
ヤングマシン編集部

大屋雄一(解説)
牧田哲朗(インタビュー)

 

※当記事に掲載されている画像の無断転載・転用を固く禁じます。