2018.07.13

History of R1 – 2015 8th GENERATION

YZF-R1



この記事は、モーターサイクルマガジン「ヤングマシン」の編集部より、当時の取材記事や写真が特別に提供され作成されています。

 

コンセプトを完全刷新
軸足をサーキットへと移行

 

 
<コンセプト&アウトライン>
YZR-M1の思想を体感できる、ハイテクSSへと変貌

 
2011年にカワサキのZX-10Rがスーパースポーツとして初めて200psの大台に乗せてから4年後の2015年。BMWがS1000RRを6ps増の199psに引き上げたのをはじめ、アプリリアはRSV4RRで201psを、ドゥカティは1299パニガーレで205psを達成するなど、このカテゴリーにおけるパワーウォーズはついに”200ps”がスタンダードとなっていた。リッターあたり200psと言えば、かつてTT-F1を戦っていたワークスレーサー(750ccで150~160psを公称)に匹敵する比率であり、そんなマシンが誰もが買える時代に突入したのである。
 
これを善とするか否かの論はさておき、スピードに憧れてバイクに乗り始めた人にとっては、夢や憧れが現実になったような話だろう。一方で、それほどの強大なパワーを扱いきれるのかという疑念が生じても不思議ではない。スロットルを開けすぎればいとも簡単にホイールスピンするか、フロントタイヤが離陸してしまう。もちろんコーナリング中であればスリップダウンは免れない。こうした事態を抑止するため、先に挙げた200ps前後を公称するスーパースポーツ勢は、リアタイヤの空転を制御するトラクションコントロールなど、何らかの電子デバイスでライダーをサポートするシステムを盛り込んでいた。その内容は欧州メーカー各社が完全に抜きん出ており、だからこそ200psものモンスターマシンを一般ライダーに販売しても良かろうという経営判断に至ったに違いない。
 
ヨーロッパの各メーカーが大きな動きを見せた2015年。ヤマハはYZF-R1をコンセプトから全面的に刷新する。ツイスティロード最速というストリートに軸足を置いたものから、レース参戦とサーキット走行を主眼に据えた「High tech armed pure Sport」へ。このコンセプトチェンジは、公道のみを走る一般ライダーを置き去りにしたものと捉えられそうだが、決してそうではない。というのも、新型R1を開発するにあたり、担当者全員がモトGPレーサーYZR-M1に試乗。その乗りやすさに感激し、次のR1をサーキット専用に割り切っても扱いにくくなるはずがないと確信したという。つまり、誰もがワークスマシンM1の思想を体感できるマシンとしてR1は生まれ変わったのだ。
 
完全新設計となったエンジンは、引き続きクロスプレーン型クランクシャフトを採用しつつ、さらにショートストローク化され、より高回転型に。最高出力は一気に18psも増え、ついにライバル各車と同等の200psに到達した。そして、この大パワーを誰もが扱えるものとするため、ヤマハは量産2輪車では世界初となる6軸制御センサーのIMU(Inertial Measurement Unit)を搭載。これは慣性測定装置とも呼ばれ、走行中のピッチ/ロール/ヨー方向の動きを検出するジャイロセンサーと、前後/上下/左右の加速度を検出するGセンサーからなり、これらが6方向の車体の動きを把握する。情報はCAN通信によってECUに送られ、燃料噴射量や点火時期、スロットル開度の各マップを補正し、最適なエンジン出力として反映される。
 
採用された電子制御デバイスの種類についてはエンジンの項に詳しいが、およそ2015年時点で考えられるすべてを盛り込んだと言っても過言ではない。付け加えると、2015年モデルでは上位グレードとして、オーリンズ製の電子制御ショックユニットや一部にドライカーボンを使った外装、GPSロガーなどを採用した”YZF-R1M”が登場。この電子制御サスペンションシステムにもIMUで得られたデータが活用されている。
 2017年には欧州の排ガス規制ユーロ4に対応し、翌2018年にはQSS(クイックシフト)がダウン方向にも対応可能に。さらに同年、上位グレードのR1Mはセミアクティブサスのオーリンズ・スマートECを2.0へとバージョンアップするなど、主にソフト面でのアップデートが実施されている。
 2015年、ヤマハはこのブランニューR1で19年ぶりに鈴鹿8耐を制すると、2017年までに破竹の3連覇を達成。さらに2017年にはFIM世界耐久選手権のチャンピオンに返り咲くなど、檜舞台で確実に結果を残している。大胆なコンセプトチェンジが最高の形で実を結んだのだ。

 
 


 
<エンジン>
新設計で200psに到達。6軸センサーによる電子制御も特筆点だ

 
歴代YZF-R1に搭載された水冷並列4気筒エンジンのボア×ストロークを振り返ってみると、初代~3代目は74.0×58.0mmで、それ以降は4~5代目:77.0×53.6mm、6~7代目:78.0×52.2mm、8代目(2015年~):79.0×50.9mmと、エンジンが刷新されるたびにボアが1mmずつ拡大されてきた。裏を返せば、徐々にショートストローク化してきたわけだ。
 
2015年モデルのエンジンはボアを79.0mmに拡大したことで、吸気バルブをφ31→33mm、排気バルブをφ25→26.5mmへとそれぞれ大径化。合わせてバルブ挟み角を小さくすることでペントルーフ型燃焼室のコンパクト化に成功。圧縮比を12.7→13.0:1に高めている。
 
動弁系で注目すべきは、YZF-Rシリーズとしては初めてスイングアーム式ロッカーアーム、いわゆるフィンガーフォロワーを採用したことだ。これまでの直打式よりも少ない力でバルブを動かせるのが特徴で、さらにヤマハはロッカーアーム摺動部にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施すことで、フリクションを限りなく減らしている。
 
ピストンは軽さと剛性という相反する要素を両立したボックスブリッジ型アルミ鍛造品で、さらに市販製品としては世界初となるFSチタンコンロッドを採用。FSとは破断分割式のことで、高精度な大端真円度を確保している。なお、シリンダーはヤマハの4気筒エンジンでは初となるオフセットタイプだ。
 
クロスプレーン型クランクシャフトは、慣性モーメントを先代比で約20%削減。クラッチはアシスト&スリッパータイプで、これも先代比で19%の軽量化と、約7%の小径化を実現している。
 
なお、2016年には北米市場向けに、コンロッドをチタンからスチール製に、エキパイをチタンからステンレス製に、オイルパンやケースカバーをマグネシウムからアルミ製に置き換えるなどした廉価モデル、YZF-R1Sが追加されている。
 
さて、2015年型YZF-R1に採用された電子制御デバイスの説明に移ろう。代表的なのはトラクションコントロールシステム(TCS)で、R1に導入されたのはバンク角をも考慮した発展系だ。これをさらに高度化したのがスライドコントロールシステム(SCS)で、横方向の移動を検知して駆動力を抑えるなどの制御が介入する。これは量産2輪車では初採用であり。まさに6軸制御センサーの賜物と言えるだろう。そのほか、無駄なウイリーを抑制するリフトコントロールシステム(LIF)、ロケットスタートを可能にするローンチコントロールシステム(LCS)、クラッチレバーを操作しなくてもスロットルを開けたままでシフトアップできるクイックシフトシステム(QSS)が採用されており、さらにR1Mではセミアクティブサスのエレクトリックレーシングサスペンション(ERS)がこれに加わる。
 
手元のスイッチに走行モードが任意に選べるという、2009年モデルから採用された「ヤマハD-MODE」は、PWR(パワーモード切り替えシステム)とYRC(ヤマハライドコントロール)のふたつに高度化。前者はアクセル開度に対するスロットルバルブ開度マップを4つ備えており、ライダーが任意に選択できる。一方のYRCは、各制御を織り込んだPWR各モードを、それぞれ独立したセッティングデータとしてメモリーするもの。A~Dまでの4つのパターンとしてとして保存される。
 
なお、R1Mに標準装備されるコミュニケーションコントロールユニット(CCU)はGPSロガーであり、R1にはオプションで用意される。専用アプリを介してスマホ上でデータを扱えるというのも近代的と言えるだろう。
 
 

 
<シャシー>
マグホイールなどで軽量化に注力。R1Mには電制オーリンズも装備

 
1998年登場の初代からR1のアイデンティティだった吊り目ヘッドライト、そして長らく採用されてきたセンターアップマフラーと潔く決別した2015年型YZF-R1。フロントカウルやスクリーン、そして水平基調のスタイリングはYZR-M1を彷彿させるもので、外観からもサーキット最速を予感させる。
 
エアダクトの左右に隠れるように配置されたヘッドライトは、軽量かつ省電力、照射性に優れたLEDを採用。また、燃料タンクは量産車としては珍しいアルミ製で、R1Mはさらにバフ仕上げ+クリア塗装として高級感を演出する。ライダーシートは体重移動と乗車姿勢の自由度を確保するため幅広タイプとし、深いニーポケットを持つタンクと相まって優れたライダー・マシン一体感が得られる。
 
YZR-M1と酷似したアルミ製デルタボックスフレームは、もちろん完全新設計だ。「高速安定性や旋回性」と「旋回中のライン自由度の拡大」との両立、コーナー脱出時の駆動特性の向上などを狙ったもので、結果的に先代とはまったくデザインが異なるものへと進化した。ラムダクトはヘッドパイプを貫通してエアダクトへと導かれるなど、こうした部分にもM1のDNAが見え隠れする。
 
ボルトオン式のシートレールはマグネシウムのダイキャスト製で、アルミ製のスイングアームは上向きトラス形状とすることでチャンバーの容量確保に貢献している。R1のフロントフォークはKYB製のφ43mm倒立式で、同じくKYB製のリヤショックともフルアジャスタブルとなっている。なお、R1Mのショックユニットは前後とも電子制御式のオーリンズで、IMUからの情報を元にリアルタイムで前後の減衰力を変化させる。いわゆるセミアクティブサスだ。
 
ブレーキは、ついに2007年モデルから使い続けてきた6ピストンキャリパーと決別。フロントはアドヴィックス製のモノブロック対向式4ピストン+φ320mmフローティングディスク、リヤはニッシン製シングルピストン+φ220mmソリッドディスクとなった。なお、R1、R1MともABSを標準装備し、前後の制動力を可変させるユニファイド式を採用する。
 
ホイールはマグネシウム鋳造で、フロントで先代比マイナス530g、リヤで340gもの軽量化を達成。ヤマハの森町工場で生産されるもので、マグネシウム素材ながら耐食性に優れ、未塗装でもほとんど腐食しないという。
 
そのほか、エンジンのカバー類にアルミボルトを採用するなど徹底した軽量化により、R1は先代比でマイナス7kgの199kg、R1Mは200kgを達成。ホイールベースは10mm短縮されて1405mmに。
 
 
2018年、YAMAHA FACTORY RACING TEAMは4連覇をかけ、初代R1を彷彿させる赤×白の特別カラーで鈴鹿8耐に挑む。衝撃的なデビューから今年で20年。その戦いぶりをぜひ目に焼き付けてほしい。

 

主要諸元 2015・ヤマハYZF-R1([]内はR1M)
全長(mm) 2055
全幅(mm) 690
全高(mm) 1150
軸間距離(mm) 1405
キャスター角 24°
トレール(mm) 102
シート高(mm) 855[860]
車両重量(kg) 199[200](装備)
燃料タンク容量(ℓ) 17
エンジン種類 水冷並列4気筒
弁形式 DOHC4バルブ
排気量(cc) 998cc
内径×行程(mm) 79×50.9
圧縮費 13
最高出力 200ps/13500rpm
最大トルク 11.5kg-m/11500rpm
変速機形式 6段リターン
変速比・1速 2.600
変速比・2速 2.176
変速比・3速 1.824
変速比・4速 1.579
変速比・5速 1.381
変速比・6速 1.250
1次減速比 1.634
2次減速比 2.563
前ホイールトラベル 120
後ホイールトラベル 120
タイヤサイズ前 120/70ZR17
タイヤサイズ後 190/55ZR17[200/55ZR17]

 


 

〈文責〉
ヤングマシン編集部

大屋雄一(おおや・ゆういち)

 

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