2018.06.21

History of R1 – 2009 6th GENERATION

YZF-R1



この記事は、モーターサイクルマガジン「ヤングマシン」の編集部より、当時の取材記事や写真が特別に提供され作成されています。

 

クロスプレーン型クランクシャフトを量産
2輪車として世界初採用

<コンセプト&アウトライン>
海外勢が台頭するなか、モトGP直系の技術を投入

2009年、スーパーバイク世界選手権の車両規則が気筒数を問わず上限1000ccとなってから6シーズン目。国内4メーカーとイタリアのドゥカティが参戦していたこの市販車による最高峰レースシーンに、ドイツのBMWとイタリアのアプリリアが突如姿を現したのだ。BMWは日本のスーパースポーツと共通の水冷並列4気筒+アルミツインスパーフレームのS1000RRを開発。最高出力は193psで、当初からレースABSやトラクション&ウイリーコントロールなどを採用。しかも、これらの介入レベルはパワーモードの切り換えに連動するなど、電子デバイスを惜しみなく導入してきた。また、アプリリアは同じくアルミツインスパーフレームに水冷65度V型4気筒エンジンを搭載。最高出力は180psで、カセット式ミッションを採用するなど完全にレースを意識した仕様となっていた。

そんな黒船来襲とも言える2009年。ヤマハはYZF-R1をフルモデルチェンジする。1998年の初代から受け継がれる「コーナリングのエキサイトメント」というコンセプトはそのままに、新たな扉を開けるべく新型エンジンにモトGP直系の技術であるクロスプレーン型クランクシャフトを採用したのだ。

生きる伝説とまで称される最強のモトGPライダー、バレンティーノ・ロッシが最初にヤマハに移籍した2004年。ファクトリーマシンYZR-M1に採用され、彼が「Sweet」という言葉で絶賛したのがクロスプレーン型クランクシャフトである。詳しくはエンジンの項目で説明するが、一般的な並列4気筒が180度等間隔爆発のシングルプレーン(フラットプレートとも呼ばれる)型クランクシャフトを採用するのに対し、このクロスプレーン型は90度V型4気筒と同じ270-180-90-180度の不等間隔となるのが最大のポイントだ。その狙いは「コーナー立ち上がりの際に求められるリニアなコントロール性」であり、YZF-R1はこれを量産2輪車で初めて採用したモデルとなった。

車体も全面的に刷新された。メインスパー部をストレートから湾曲デザインとしたアルミデルタボックスフレームは、エンジンのマウント位置を大幅に変更するとともに、搭載位置と角度を見直すことで前輪分布荷重を52.4%まで高めた。また、リヤフレーム(シートレール)に軽量なマグネシウム素材を使用したり、左右独立式の減衰力機構を持つφ43mm倒立式フロントフォークなどを新採用。ヘッドライトはプロジェクタータイプで、ハイビームとロービームをソレノイド駆動によって切り換えるというもの。マスの集中や凝縮感を主張する新しいスタイリングと合わせ、2009年モデルを印象的なものとしている。

そして、やはり注目すべきはYZF-R1史上で初めて国内仕様が登場したことだ。最高出力はフルパワー仕様の182psに対して、平成13年騒音規制および排ガス規制に適合させた結果145psに抑えられるが、ホンダに続きヤマハも国内ラインナップに1000ccスーパースポーツを加えたことは大きなトピックと言えるだろう。

なお、1988年から始まったスーパーバイク世界選手権において、この2009年に初めてヤマハが年間タイトルを獲得した。クロスプレーン型クランクシャフトの優秀性がモトGPだけでなく市販車ベースのレースでも証明されたのだ。

 

<エンジン>
燃焼トルクだけをライダーに伝え、よりコントローラブルに

エンジンが発生するトルクには、燃焼(爆発)によるガス圧トルクと、ピストンの往復運動に由来する慣性トルクがあり、ライダーはこのふたつを合成したトルクを感じ取っている。前者はスロットル操作によって制御できるが、後者はエンジンの回転速度に依存しているのでライダーはコントロールすることができない。この慣性トルク変動をノイズと捉え、ほとんどを除去することに成功したのが、並列4気筒エンジンにおけるクロスプレーン型クランクシャフトなのだ。具体的には、大端ピンのレイアウトを一般的なシングルプレーン型の180度位相ではなく、左側2気筒/右側2気筒のそれぞれ隣り合う大端ピンを90度ずらしている。これにより270-180-90-180度の不等間隔爆発となり、また点火順序も2輪用並列4気筒エンジンで一般的な「1-2-4-3」ではなく、「1-3-2-4」となっている。

この並列4気筒エンジンにおけるクロスプレーン型クランクシャフト、実はカワサキが1984年に発売したGPZ900Rの開発段階で検討していたほどなので、決して目新しい技術ではない(カワサキは直4らしい伸び上がり感に欠けること、またサウンドがV型4気筒に酷似していることから却下したという)。量産するにあたりヤマハは、クランクシャフトの高精度製造や1次偶力バランサーの最適設計、気筒別燃焼噴射マップおよびギヤ別のYCC-T開度マップなどを盛り込むことで、見事に実用化に成功している。なお、クランクジャーナルはφ32mmからφ36mmへと大径化された。

また、2009年モデルはレースユースでの高回転化に配慮し、ボアをレギュレーション内の最大径であるφ78mm(従来はφ77mm)へと拡大している。2007年モデルから採用された電子制御スロットルのYCC-T(ヤマハ・チップ・コントロール・スロットル)は、手元のスイッチによってSTD/A/Bという3種類の走行モードが任意に選べる「ヤマハD-MODE」を導入。さらに、同じく2007年モデルから採用された電子制御インテークのYCC-I(ヤマハ・チップ・コントロール インテーク)は、空気冷却による充填効率向上のため吸気ファンネル上方にセカンダリーインジェクターを追加している。この新設されたインジェクターは5000rpm以上で作動し、スロットル開度とエンジン回転数によってメインインジェクターとの噴射割合を制御している。

最高出力は従来の180psから182ps(フルパワー仕様)へと2psアップしたに過ぎないが、量産2輪車初となるクロスプレーン型クランクシャフトを採用したことで、それほどの大パワーがよりコントロールしやすくなったという点において、革新的な進化を遂げたといっても過言ではない。

 

<シャシー>
「開けられる」エンジンに呼応し車体を最適化

トルク変動によるノイズが消えたことで、より積極的にスロットルを開けられるようになったのが2009年モデルのエンジンだ。その結果、これまで以上に大きな負荷がシャシーにかかるようになり、新たな視点で車体設計が行われた。

アルミデルタボックスフレームは完全な新作だ。エンジンの前側懸架位置がシリンダーヘッド後方から前方へと大きく変わったのをはじめ、エンジンの搭載角を9度起こした31度(シリンダー前傾角)とし、搭載位置をドライブ軸位置で12mm前方へと移動している。これにより前輪分布荷重を52.4%まで高めることに成功。さらに、ライダーの着座位置からハンドルまでの距離を20mm短縮し、コーナリング時におけるライディングポジションの自由度を増やしている。

フレームの剛性については安定性の確保とクイックなハンドリングを狙い、縦剛性とねじり剛性をやや高める一方で、横剛性を約40%もダウンした。これにより路面反力などの外乱をしなやかに吸収する操安性を実現している。この絶妙な剛性バランスを実現するため、ヤマハCFダイキャスト製法による溶接用構造材をタンクレール(メインスパー部)に採用している。

倒立式フロントフォークはインナーチューブ径φ43mmこそ従来と同じだが、これも完全な新作である。右は圧側、左は伸び側の減衰力を発生するという左右独立式構造で、シンプルなオイルの流れと差圧の少ない大径ピストンによって減衰力発生の応答性が良く、路面追従性に優れるのが特徴だ。また、リヤサスペンションについてはリンク構造とレシオを見直している。なお、ショックユニットの2ウェイ圧側減衰力調整機構や油圧式プリロード調整機構は引き続き採用される。

燃料タンクは、3D成形シミュレーション解析技術によって新設計されている。フレームの枠内に収まる縦長形状が特徴で、マスの集中化に貢献。ガソリン量の増減による走行フィーリングへの悪影響が少ないのも特徴だ。

そのほか、リヤタイヤのサイズが190/50ZR17から190/55ZR17へと偏平率がアップしたのも見逃せない。フロントキャリパーはラジアルマウントの対向式6ピストン(4パッド)で、これに組み合わされるのは従来と同じφ310mmのブレーキディスクだ。

ヤマハを含む国内4メーカーが、電子デバイスのジャンルにおいて海外勢に一歩遅れる形となっていたのがこの頃だ。レースにおいてパワーは善であるが、すでに1000ccスーパースポーツの最高出力は一般ライダーが公道で扱いきれるものではなくなっていただけに、ここから一気に電子制御化が進んでいく。

 

主要諸元 ヤマハYZF-R1(2009年型)
全長(mm) 2070
全幅(mm) 715
全高(mm) 1130
軸間距離(mm) 1415
キャスター角 24°
トレール(mm) 102
シート高(mm) 835
車両重量(kg) 206(装備)
燃料タンク容量(ℓ) 18
エンジン種類 水冷並列4気筒
弁形式 DOHC4バルブ
排気量(cc) 998cc
内径×行程(mm) 78×52.2
圧縮費 12.7
最高出力 182ps/12500rpm
最大トルク 11.8kg-m/10000rpm
変速機形式 6段リターン
変速比・1速 2.533
変速比・2速 2.062
変速比・3速 1.761
変速比・4速 1.521
変速比・5速 1.363
変速比・6速 1.269
1次減速比 1.511
2次減速比 2.765
前ホイールトラベル 120
後ホイールトラベル 120
タイヤサイズ前 120/70ZR17
タイヤサイズ後 190/55ZR17

 


 

〈文責〉
ヤングマシン編集部

大屋雄一(おおや・ゆういち)

 

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