2018.06.15

History of R1 – 2007 5th GENERATION

YZF-R1



この記事は、モーターサイクルマガジン「ヤングマシン」の編集部より、当時の取材記事や写真が特別に提供され作成されています。

 

“伝家の宝刀“を捨て
電子制御でさらなる高みへ

<コンセプト&アウトライン>
2006年に大規模な改良を行うも、わずか1年でフルモデルチェンジ

カテゴリー初の大変革イヤーとなった2004年。スーパーバイク世界選手権の車両規則が気筒数を問わず上限1000ccとなり、一般公道を舞台としてきたスーパースポーツがレースベース車としても活躍できるよう、各メーカーが注力しはじめた年となった。ヤマハの本格参戦は2005年からだが、2004年の段階でFIM世界耐久選手権や欧州スーパーストック選手権などでタイトルを獲得。YZF-R1は幸先の良いスタートを切っていた。

1998年のデビュー以来、2シーズン毎にモデルチェンジを繰り返してきたYZF-R1は、そのサイクルに則り2006年に大掛かりな熟成を実施する。「よりエキサイティングなライディングの世界を提唱」をテーマに、峠道での扱いやすさを向上させつつ、さらにサーキット走行でのエキサイトメントに磨きをかけてきた。エンジンは基本設計をそのままに吸気効率を見直し、従来と同じ1万2500rpmの最高出力発生回転数から3psアップの175psを達成している。車体については、デルタボックスV(ビクトリー)と名付けられたメインフレームの鋳造部材を部分的に1mm薄肉化。加えて、φ43mm倒立式フロントフォークのアウターチューブやアンダーブラケットの剛性バランスを見直しつつ、逆トラス形状のアルミ製スイングアームの軸間距離を16mm延長している。これによりホイールベースは従来比で20mmプラスの1415mmを公称。YZF-R1として初めて1400mmを超えたモデルとなった。

さらに、サーキットでの戦闘力を高めた上位機種「YZF-R1 SP」が追加されたのも2006年の大きなトピックだ。オーリンズ製の前後ショックユニットをはじめ、ヤマハの技術者と共同開発したマルケジーニ製アルミ鍛造ホイール、ピレリ製ディアブロコルサ(STDの標準装着タイヤはダンロップ・D218およびミシュラン・パイロットパワーで従来と銘柄は同じだが、新しくなったフレームとの最適化を図るために内部構造を変更)、スリッパークラッチなどを採用。さらに、熟成されたSTDのフレームをベースにエンジン懸架部の締結構造を見直しているのも特徴だ。このSPは欧州500台を含む1330台が限定生産された。なお、乾燥重量はSTDが従来比1kgプラスの173kg、SPはさらに1kg重い174kgを公称する。

2007年。前年にこれだけ大掛かりなマイナーチェンジを実施したにもかかわらず、ヤマハは翌年に歴史的な大英断を下す。“Fastest & Highest Status Super Sport”をコンセプトとし、1985年登場のFZ750以来、伝家の宝刀として採用し続けてきた5バルブ方式を捨て、ごく一般的な4バルブのシリンダーヘッドを採用したのだ。さらに、量産二輪車初となる電子制御式可変エアファンネルを採用したり、フレームを新設計とするなど、サーキットでの戦闘力をさらに高めてきた。付け加えると、複数のパネルが重なったように見えるレイヤードカウルが採用されたのもこのモデルから。モトGPに人気を奪われ気味だったスーパーバイク世界選手権が再び注目されるようになっただけに、各メーカーとも負けられない戦いがそこにあった。

 

<エンジン>
伝統の5バルブからM1譲りの4バルブへ。電子制御も積極投入

2004年モデルで全面刷新され、第2世代となったYZF-R1の998cc水冷並列4気筒エンジン。2007年モデルはこれをベースにシリンダーヘッドを4バルブ化している。

ヤマハ伝統の5バルブ方式は、吸気側3本、排気側2本のバルブで構成される。現在主流となっている4バルブ方式よりもバルブの有効開口面積が広いことが最大のメリットだが、一方で部品点数が多くなるため構造が複雑化する、バルブスプリングが増えることによるメカニカルロス、燃焼室形状に制約があるなどのデメリットが取り沙汰されていた。ヤマハにとっての看板テクノロジーのひとつである5バルブ方式を捨てるのは苦渋の決断だっただろうが、すでにモトGPレーサーのYZR-M1は4バルブを採用しており、その最先端技術も応用できるというのは大きなアドバンテージと言えよう。なお、4バルブ化に伴い、バルブの材質は軽量なチタン製にアップグレードされた。

この4バルブヘッド化と合わせて、ヤマハはGENICH(ジェニック)という最新の電子制御技術を導入する。具体的には、2006年にフルモデルチェンジした兄弟モデル、YZF-R6が先に採用したYCC-T(ヤマハ・チップ・コントロール・スロットル)と、YCC-I(ヤマハ・チップ・コントロール インテーク)のふたつからなるテクノロジーであり、YZF-R1をさらに上のステージへ引き上げたといっても過言ではない。

YCC-Tはいわゆるライド・バイ・ワイヤー=電子制御スロットルで、ライダーが直接スロットルバルブを操作しない方式だ。従来はスロットルボディ内にメインとサブという2枚のバルブがあり、メインの1枚をライダーが直に、サブの1枚をコンピュータからの指示によってサーボモーターが動かしていたが、YCC-Tはこのモーター駆動のバルブのみになったと考えていい。ライダーのスロットル開度とその速さから適切なバルブ開度を1/1000秒単位で演算するというもので、これはYZR-M1で培われた技術を応用したもの。YZF-R6が先行採用し、それをR1も導入した形となる。

そして、注目すべきはYCC-Iという量産2輪車初採用となる可変ファンネル機構だ。これは長短ふたつのファンネルを組み合わせたもので、低中回転域ではふたつのファンネルがつながっており全長は140mmに、高回転域では分離して実ファンネル長は65mmとなる。この制御もコンピュータとサーボモーターが行っており、切り替えポイントは9400rpmとなっている。

最高出力は5psアップの180ps、エアインテークシステムからの加圧が最大限に働いた時には189psに達するなど、さらなるパワーアップを実現した2007年型。前年登場のSPのみが採用していたスリッパークラッチが標準装備となるなど、扱いやすさが向上したのも見逃せない。

 

<シャシー>
完全新設計のフレームを核に、剛性バランスを徹底チューン

シャシーも全面的に刷新された。まずはメインフレーム。見た目こそ先代からあまり変わっていないように思えるが、完全な新設計となっている。内側が重力鋳造材、外側が高張力押し出し材で構成されるツインスパー部は、ヘッドパイプとスイングアームピボット付近にリブを設けるなどして強化。一方で、押し出し材の厚さを3.5mmから2.5mmに薄肉化するなどして、全体の剛性バランスを見直している。

逆トラス形状のアルミ製スイングアームもメインフレームと合わせて変更されている。ピボット部に重力鋳造材、左右非対称のメインアームにヤマハCFダイキャスト材、エンド部に鍛造材を用いた新しいスイングアームは、ねじれ剛性が30%増えた一方で横剛性はわずかに減少している。さらに、加速時に発生するチェーンテンションのスクワット効果を高めるため、ピボット軸を3mm上げているのもポイントだ。

倒立式フロントフォークは、φ43mmというインナーチューブ径こそ従来と同じだが、新型フレームとのマッチングを考慮して剛性バランスを見直している。インナーチューブの肉厚がわずかに薄くなり、ピストンのサイズは20mmから24mmへ。また、ピストンロッドが軽量なアルミ製になったのも見逃せない。このフロントフォークを支持するアルミ鍛造製のアンダーブラケットは、より軽量で剛性を見直したものに変更。厚さは25mmから40mmとなり、理想的なコーナリングを追求する。リヤショックはプログレッシブレートを従来の8%から14%とし、さらに圧側の減衰力を高速側と低速側でそれぞれ別に調整できる2ウェイアジャスターを新採用している。

フロントブレーキシステムは、ブレーキディスクの実効径のそのままに外径を従来のφ320mmからφ310mmへとわずかに小径化し、より軽快なハンドリングを手に入れた。合わせてフロントキャリパーを従来のラジアルマウント対向4ピストンから同6ピストンへと変更している。

レイヤードタイプとなったカウリングは、単に従来よりも空気抵抗を低減させるだけでなく、ラムエアインテークへの空気の流入量を増やしたり、また負圧効果を発生することでエンジンの熱を効率良く引き出すなど、機能的にも非常に優れている。新形状のツインファンラジエターと合わせ、低速走行時や渋滞にはまった時などの快適性はかなり向上したと言えるだろう。

乾燥重量は2006年モデルの173kgから4kg増の177kgへ。この年、排ガス規制の影響もあり、同じタイミングでモデルチェンジしたスズキのGSX-R1000は左右2本出しサイレンサーを採用するなどして6kgも増えるなど、軽さが正義のスーパースポーツにとっては受難の年となった。ちなみにヤマハは、O2フィードバック制御の三元触媒や偏平楕円アップマフラーなどによってこの規制をパス。国内メーカーのスーパースポーツ4車の中で最も重くなってしまったが、180psという最高出力はスズキに次いで2番目に高く、サーキットでの戦闘力の高さはスーパーバイク世界選手権をはじめ、全日本ロードレース選手権などで徐々に証明されていく。

 

主要諸元 ヤマハYZF-R1(2007年型)
全長(mm) 2060
全幅(mm) 720
全高(mm) 1110
軸間距離(mm) 1415
キャスター角 24°
トレール(mm) 102
シート高(mm) 835
車両重量(kg) 177(乾燥)
燃料タンク容量(ℓ) 18
エンジン種類 水冷並列4気筒
弁形式 DOHC4バルブ
排気量(cc) 998cc
内径×行程(mm) 77×53.6
圧縮費 12.7
最高出力 180ps/12500rpm(※1)
最大トルク 11.5kg-m/10000rpm(※2)
変速機形式 6段リターン
変速比・1速 2.533
変速比・2速 2.063
変速比・3速 1.762
変速比・4速 1.522
変速比・5速 1.364
変速比・6速 1.269
1次減速比 1.512
2次減速比 2.647
前ホイールトラベル 120
後ホイールトラベル 130
タイヤサイズ前 120/70ZR17
タイヤサイズ後 190/50ZR17

※1:ラムエア作動時は189ps/12500rpm
※2:ラムエア作動時は12.1kg-m/10000rpm

 


 

〈文責〉
ヤングマシン編集部

大屋雄一(おおや・ゆういち)

 

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