2018.04.13

History of R1 – 1998 1st GENERATION

YZF-R1



この記事は、モーターサイクルマガジン「ヤングマシン」の編集部より、当時の取材記事や写真が特別に提供され作成されています。

 
 
 
 

至上命題はツイスティロード最速
スーパースポーツの革命児・初代R1

 
 

 
<コンセプト&アウトライン>
他を圧倒する衝撃のスペックも真骨頂はGP500譲りの車体構成

1980年代後半、大排気量のスポーツバイクと言えば、スーパーバイク世界選手権などに参戦するためのベース車両となった750ccのレーサーレプリカか、もしくは1000cc前後でパワーや最高速を競い合っていたスポーツツアラー、この実質二択しかなかった。前者はサーキットでのパフォーマンスを追求するあまり一般公道では乗りづらく、また後者は最高出力バトルに明け暮れた結果、それを支えるために車体は肥大化し、さらに重くもなりすぎていた。どちらもスタイリングはスポーティで、いかにもワインディングロードを快活に走りそうなイメージを漂わせていたが、現実には一般ライダーのテクニックで楽しめる代物ではなくなっていたのだ。

そんな風潮に一石を投じたのが、1992年に登場したホンダのCBR900RR「ファイヤーブレード」だ。排気量は893ccなのでスーパーバイクの4気筒750cc以下というレース規則に合致せず、しかも最高出力は当時のフラッグシップが軒並み140psをオーバーする中、124psと控えめだった。だが、注目すべきは車重で、リッターモデルより40kg前後も軽く、パワーウエイトレシオで他を圧倒。「トータルコントロール性能の追求」という、これまでにないコンセプトが世界中で受け入れられ、初年度からスマッシュヒットとなったのだ。

これを受けて、ヤマハは4年後の1996年にシリーズの旗艦であったFZR1000をフルモデルチェンジする形で、YZF1000Rサンダーエースをデビューさせる。レースベース車YZF750SPのディメンションを踏襲した車体に、FZR1000をベースとした145psを発揮する1002cc水冷DOHC5バルブ並列4気筒エンジンを搭載。ペットネームからもCBR900RRを強烈に意識していたことがうかがえるが、前作の延長線上にあるスポーツツアラー然とした走りにより、ライバルの牙城を崩すには至らなかった。

ヤマハはこのサンダーエースを発売した翌1997年の秋、ミラノショーでブランニューモデル「YZF-R1」を発表する。最高出力150ps、乾燥重量177kg、ホイールベース1395mm……。先行して配布されたプレス向けの資料にはこうした衝撃的な数値が並んでおり、ショーの現場はこの話題で持ちきりだった。

ホンダのCBR900RRと、それに追従したカワサキのニンジャZX-9Rが900ccという排気量でパワーと軽さのバランスを追求してきたのに対し、ヤマハは1000ccを選択し最高出力でライバルを圧倒。さらに注目すべきはシャシーで、世界GPで活躍する2サイクル500ccレーサー・YZR500の基本構成を踏襲し、ロングスイングアーム・ディメンションを採用。これを実現するために、FZR1000やYZF1000Rサンダーエースの流れとは全く異なる、コンパクトな998cc水冷DOHC5バルブ並列4気筒エンジンが新設計された。

翌1998年から市販された初代YZF-R1。同じタイミングでCBR900RRも3代目へとモデルチェンジしたが、R1はこのライバルに対して20psも上回り、しかも乾燥重量は3kg軽かった。ちなみにパワーウエイトレシオは、当時のスーパーバイク世界選手権で活躍していた750ccワークスレーサーに匹敵するほどで、初代R1のデビューがいかに衝撃的だったかがお分かりいただけるだろう。

 
 

 
<エンジン>
前後長の短縮に心血を注ぎ画期的なレイアウトを採用

排気量は900ccから1200ccまで、さらにV型4気筒も検討されたという、初代R1のエンジン。最終的に998cc水冷DOHC5バルブ並列4気筒が選択された。先に紹介したロングスイングアーム・ディメンションを実現するために、新設計のパワーユニットでは前後長の短縮が求められた。

一般的な並列4気筒エンジンはクランクケースが上下に分割し、その合い面に前方からクランクシャフト、ミッションのメイン軸、ドライブ軸が並ぶ。構造がシンプルなので設計や組み立てがしやすいのが特徴だが、どうしてもエンジンの前後長が長くなりやすい。

そこで、ヤマハは上下クランクケースの合い面にクランクシャフトとドライブ軸を並べ、その間を取り持つメイン軸をアッパークランクケースの右側からはめ込むという画期的な設計を採用。真横から見ると、それまで水平に並んでいたこれら主要3軸が三角形に配置されることになり、エンジンの前後長を大幅に短縮することに成功したのだ。具体的には、YZF1000Rサンダーエースのエンジンと比べて前後長は81mmも短くなり、さらに全高は20.9mm低く、単体重量は74.8kgから65.3kgへと大幅に軽くなっている。

なお、並列4気筒におけるこうした主要3軸の三角形レイアウトは、スズキが1996年型のGSX-R750で先に採用しているが、こちらはクランクケースを3分割構造とし、アッパーとミドルケースの間にクランクシャフトを、ミドルとロアケースの間にメイン軸とドライブ軸を配置。旧来のレイアウトよりも前後長は短縮されたものの、よりコンパクトに設計できるのはR1の方だ。

吸気側3本、排気側2本というDOHC5バルブ方式は、ヤマハが世界で初めて市販車に採用したもの。1985年に発売されたFZ750以来、4気筒だけでなく並列2気筒や単気筒にも導入され、そして新設計となったR1のエンジンにも当然のごとく採り入れられた。吸気面積の増大をはじめ、1本あたりのバルブ重量の軽減、燃焼室のコンパクト化による高圧縮比化など、さまざまなメリットをもたらす5バルブ方式は、2007年型で4バルブ化されるまで継承された。

ボア×ストローク値は74×58mmで、これはYZF1000Rサンダーエースの75.5×56mmよりもわずかにロングストロークだ。排気量は998ccで、最高出力は150ps。YZF1000Rが145psを公称していたので、その差はわずかに5psだが、乾燥重量は21kgも軽くなっており、これで十分と判断したのだろう。付け加えると、先ほども触れたようにCBR900RR(1998年型)が130psなので、R1はライバルを20psも上回っていたのだ。

キャブレターはミクニの負圧サーボ可変ベンチュリー、BDSR40だ。YZF1000R用に対してボア径を2mm拡大しつつ、キャブ全体の幅は30mmも狭く設計されていた。また、排気系については、エキパイの集合部に排気バルブのEXUPを採用。これは車速やエンジンの回転数、スロットル開度とその速さ、ギヤポジションという5つの情報から、最適な背圧になるようにバルブを制御するというもの。EXUP自体は1987年型のFZR400Rで初めて採用されたもので、これも5バルブと並んでヤマハの伝統的なメカニズムのひとつと言える。

 
 

 
<シャシー>
常識破りのロングスイングアーム 足回りの設定もストリートに特化

レースベース車YZF750SPのディメンションを踏襲し、セカンダリーロードでの速さを追求したYZF1000Rサンダーエース。これに対し、さらに高度なGPレーサーYZR500のディメンションを参考にし、ノーコンプロマイズ(妥協なく)というコンセプトを掲げ、ツイスティロード最速を目指して開発されたのが、初代YZF-R1だ。

注目すべきは、1395mmというリッタークラスとしては極端に短いホイールベースと、それとは対照的に一般的なモデルより60mm以上も長く設計されたスイングアームだ。こうした特徴的なディメンションを可能にしたのが、先に紹介した前後長の短い新設計のエンジンである。
ロングスイングアームにおける最大のメリットは、コーナーの立ち上がりなどトラクションがかかった状態での路面追従性の高さだ。短いスイングアームよりもリヤタイヤの接地点の移動量が少なく、結果的にスリップしにくい。加えてショートホイールベースなので、誰もが高い旋回力と優れたトラクション性能を楽しむことができるのだ。

さらに、前後のサスペンションにも特徴がある。倒立式フロントフォークのインナーチューブ径はφ41mmで、一般的なφ43mmよりも細い。これは摺動抵抗を少しでも軽減し、ビギニングの動きを良くするのが狙いだ。また、ホイールトラベル量がフロント135mm、リヤ130mmとやや長めなのもポイントで、これはヨーロッパの荒れた路面での追従性を上げるのが目的だ。

フレームはアルミデルタボックスと呼ばれるツインスパーで、エンジンを剛性部材として積極的に活用している。ユニークなのは左側のスイングアームピボットで、シフトロッドがこの部分を貫通している。ドライブ軸の上にシフト機構を配置したことによる苦肉の策ではあるが、一般的なレイアウトのリンク機構よりもスマートに収まっており、開発陣のこだわりが見え隠れする。

のちに各社が追従したことで1000ccスーパースポーツというジャンルが確立されたが、その先駆をなしたのは間違いなくこの初代R1だ。ワークスレーサーのディメンションを手本としながらも、その軸足はホンダと同様にワインディングロードなど一般公道に置いており、究極のエキサイトメントを多くのライダーに提供したのだ。

 

主要諸元 ヤマハYZF-R1(1998年型)
全長(mm) 2035
全幅(mm) 695
全高(mm) 1095
軸間距離(mm) 1395
キャスター角 24°00′
トレール(mm) 92
シート高(mm) 815
車両重量(kg) 177(乾燥)
燃料タンク容量(ℓ) 18
エンジン種類 水冷並列4気筒
弁形式 DOHC5バルブ
排気量(cc) 998cc
内径×行程(mm) 74×58
圧縮費 11.8
最高出力 150ps/10000rpm
最大トルク 11.0kg-m/8500rpm
変速機形式 6段リターン
変速比・1速 2.600(39/15)
変速比・2速 1.842(35/19)
変速比・3速 1.500(30/20)
変速比・4速 1.333(28/21)
変速比・5速 1.200(30/25)
変速比・6速 1.115(29/26)
1次減速比 1.581(63/43)
2次減速比 2.688(43/16)
前ホイールトラベル 135
後ホイールトラベル 130
タイヤサイズ前 120/70ZR17
タイヤサイズ後 190/50ZR17

 


 


 
〈文責〉
ヤングマシン編集部

 
大屋雄一(おおや・ゆういち)