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やはりここが一番似合う
 

'07 YZF-R1

噂されたフルモデル・チェンジで登場した'07 YZF-R1。'98の登場以来、留まるところを知らないヤマハ・スーパースポーツのフラッグシップ・モデルは、一体今回どんな感動を与えてくれるのか?私だけでなく多くの人がとても興味深く待ち望んでいたことだろう。そう期待させるのがレースからのイメージ。YZF-R6でもそうであったように、サーキットでの活躍から得られた技術のフィードバックは、ここ最近とても早いサイクルで導入されているからなのだ。
今回の発表で驚いたのが、ヤマハ・チップ・コントロール・インテーク (YCC-I) 。同じくコンピューター制御でスロットルをコントロールしてしまう、ヤマハ・チップ・コントロール・スロットル (YCC-T) はR6でいち早く採用されていたことから、今回は当然採用されることは想像できていた。が、それに加え、可変式のインテークまでも「引っさげて」我々の前に姿を現した!いや、正確にはエアクリーナーBOXに囲まれていて、その姿は見えないのだが…。

艶姿

全体的なシルエットは不変。これはそれだけスタイルに自信があるからなのかもしれない。事実、スーパースポーツの販売台数は経過年毎に減っていくのが普通。もちろんこれは各メーカーも毎年NEWモデルを投入しているからで、ユーザー心は揺れ動くからなのだが、'06 modelのR1の人気は全く衰えていない。というよりも、見れば見るほど引き込まれるプロポーションであることが要因のひとつだからだろう。私自身もこのスタイリングに最も衝撃を受けたひとりであり、各種レースや走行会など、色々な場面で「お目に掛かる」この娘達の1台1台に見入ってしまうほどだ。

今回発表になった'07 YZF-R1を見た時、「あれっ?」と言うのが正直な第一印象だった。遠めに見ると違いが分からなかったからだが、「この娘」に関して事細かく知っている者の目で近付くと、その構成パーツが全く変わっていることに気付いた。リア・アームは縦に厚みを増し、シートカウルの曲線絞込みは「キュッ」と。そして正面顔に関してはサイズアップされたふたつの「口」。それぞれの各構成パーツが、より高い機能を求めてシェイプ・アップされているような印象で、イメージはそのまま、機能美を今まで以上に感じる艶姿へとアップグレードしたといえる。

まずは素直に乗ってみた

アイドリング・サウンドは、'06 modelに比べて若干ながら静かだった。これは「ユーロ3」という環境対策の表れだと思うが、メーカーは地球に優しい製品を涙ぐましい努力の末ユーザーに届けるという任務も背負っており、スーパースポーツといえども環境に対して最新の技術開発が求められていることを改めて感じた。
さすがに新しいmodelに乗るときは心が躍る。充分水温を上げ、油温までも温まった頃を見計らってコースに出た。Lowギアーは、ストリートではややハイギアーな設定なのは変わらない。それほど回転数を上げないままシフトアップを繰り返し、通常ストリートで使用するレベルでのスロットル反応を確認。特に劇的な違いを感じない…いや、「違和感がない」ということは、YCC-Tのプログラミングが的を得ているということの証だろう。
軽くブレーキングからヘアピンに侵入してみた。「んんっ」軽い?ターンインのモーションを起こすと、'06 model に比べて明らかに反応の良さを感じた。あくまでも走行ペースはゆっくりなのだが…。そしてクイックなS字の切り替えし、積極的にレコードラインに乗せてみると「あらら、やるねぇ」。ヘアピンの進入で感じた反応の良さがここでも顕著に現れた。これらから推測すると…
☆ フレーム剛性の徹底的な煮詰め
フロント・ブレーキのサイズを含めたジャイロ効果の減少
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コーナーへのターンイン時における反応の良さ
ライン取りを含むライディングの楽しさや余裕
これが今回のR1が求めた特性なのだろう。実際ワインディングを楽しむ際でも、ライダーの意思に遅れることなく反応してくれることは、それだけライディングに余裕が生まれることになり、危険回避などへ気を配ることも繋がる。

これだ

さてエンジン。今までのR1は、ピークに向かって劇的なパワーを発揮する傾向にあり、これがライダーをエキサイティングな気持ちにさせた。もちろんサーキットでは、スロットルひと捻りでウイリーなんて朝飯前。スーパースポーツ初心者には、スロットルを開け続ける事を「ためらわせる」ほどの刺激を持ち合わせていた。実はこれが時として神経質に感じる場面でもあったのはレース現場での声。
ピークに向かってグイグイ立ち上がるパワー特性は、マシンそのものを必要以上にウイリーさせてしまい、全開で加速しなくてはならないところでスロットル・コントロールを余儀なくさせる。またタイヤのグリップが低下してくるレース終盤、開け続けるスロットルはリアタイヤのスピンを誘発させてしまう。このどちらの場合も、レースの場面ではありがたくない性格なのだ。これは市販車ベースのスーパーバイクだけでなく、motoGPの世界でも同じこと。現在のレース現場では効率よく加速させるスムーズなエンジン特性が不可欠なのだ。
私は徐々にペースを上げて行き、パワーが盛り上がってくる8,500〜9,000rpmを過ぎ、トルクが増大した事を確認してシフトアップを繰り返したのだが…シフトアップ後のエンジン回転上昇が鈍らない?! 小さなクラスでボアアップなどの排気量を上げたバイクに乗ったことがあるだろうか?'06までのR1と比較するとその感覚に似ており、9,000rpm以上の回転域では、まるで排気量が200ccほど増えているかのような「モリモリ感」だったのだ。もちろんこれはピーク回転まで続き、カタログ数値以上の特性変化として体感することが出来た。
ハンドリング、そしてエンジン特性と確認しつつ、気を良くした私はタイヤも温まり始めたことから全体のペースを上げていったのだが、"その気"になってヘアピン立ち上がりでいつものように全開加速に入った時だった…浮かない。そう、タイミングが合ってしまうと高々とウイリーしてしまうはずのコーナーで、しっかり路面を掴んだリアタイヤはこいつをグイグイ加速していった。その時僅かに浮いたフロントタイヤは、それ以上浮き上がろうとはせず…。
☆'06までのエンジンは"鋭さをもった特性"
                         ↓
'07 YZF-R1は中速回転域以上で排気量が上がったようなトルク感
ピークパワーは当然ながら、スロットルで意のままにコントロールする加速
この特性は、motoGPのレースを見ていると理解できるはず。YZR-M1を代表する究極のマシンたちは、レース中に勢いあまってウイリーすることは殆どない。これはコンピューターにより完全に制御された技術によるものなのだが、今回のR1に採用されたYCC-T と YCC-I は、究極のレースで求められたエンジン特性を忠実に再現しようとしたものなのだろう。

そして突っ込んだ

ハンドリングもエンジン特性も少し理解できた。こうなってくるとコーナーに勢い良く飛び込みたくなるのはライダーの性。6ポッドのキャリパーは、スピードメーター270km/hほどからのブレーキングを繰り返すレベルでは不満もなく、いよいよ激しいシフトダウンとともにコーナーへ進入してみた。ギア・ダウンに対してそれほど丁寧にアクセルを合わせなかったのだが、「あれっ?」拍子抜け…。スリッパークラッチの効果が、R6ほど強く設定されていないようだ。減速時に滑らせるスリッパークラッチは、激しいシフトダウンで作動開始した時点ではありがたいものの、減速が終了するあたりで作動が「0」になる瞬間が神経質であることも確か。まぁこれは、ストリートで無駄に滑らせすぎて耐久性を落とすよりも、作動域を限定して安定したフィーリングとしているのだと思われる。もちろんレース用にはキットパーツが用意され、その設定を好みに合わせて任意に調整可能とのことなので、機会があれば試してみたい。
ちなみにワールド・スーパーバイクのレースでは、どのメーカーもクラッチの消耗には神経質で、日曜日の朝フリー走行後にクラッチを新品→Race1 。そしてRace2 の前にはもう一度新品にする必要があるほど。つい先日ワールド・スーパーバイクの最終戦観戦に行った時もこれに遭遇し、Race1がレッドフラッグ中断した時にも慌ててクラッチ交換しているチームもあり、パワーと引き換えにクラッチは大きなダメージを受けていることを再確認させられた。

そして思った

モーターサイクルは性能が高度化しているとはいえ、やはり無茶をすれば即座に痛い目に遭わされるし、ライダーの意思と気持ちがぴたりと一致すればとてもいい気分にさせてくれる…。特にスーパースポーツは女性的だと思う。ご機嫌をとったり反応をみたり、バイクへの接し方は女性の扱いと同じではないだろうか?
'07モデルYZF-R1は、そういった意味ではとても「リアクションのいい娘」と言うことができる。中速域からのトルク感、パワーがダイレクトに加速につながる点の他にも、ブレーキングからターンインなど、ライダーの気持ちに対してとても良い反応を見せてくれた。私は昔のレースシーンを思い出し、「この娘なら…」とチョットその気になってしまった。

難波恭司プロフィール

1963年3月8日生まれ
'81 18才で草レースを始める/'83 ノービスライセンス取得/'85 鈴鹿4h耐久レース 3位/'86 国際A級昇格 ヤマハ契約/'87 TZ250の開発テストに携わりながらレース参戦始まる/'92 ファクトリーマシン TZM250開発テストに携わる、全日本選手権 初優勝 250cc/'96 GP500マシン開発テスト携わる/'98 代役としてWGPのGP500へ年間 5戦参戦 鈴鹿では予選2位 決勝5位/'02 現在はモータースポーツ普及活動など、モーターサイクルの「伝道師」として活動中。特に今年は'07YZF-R1でレース参戦を計画中。