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スタンバイOK
 

1年ぶりのWSB

最初にも触れたが、2005年のワールド・スーパーバイク最終戦、フランス・マニクールからちょうど1年。私は2006年の締めくくりとなるレース、マニクールへ行ってきた。ヤマハモーター・フランスのチームクルー達は忙しい中でも大歓迎して私を迎えてくれ、お互い一年間で起こった出来事を報告しあった。
ワールド・スーパーバイクがmotoGPと大きく違うのはパドックの雰囲気。それは市販車で行われているからか、どことなくフレンドリーな空気が漂う。もちろん世界のトップ・カテゴリーで戦っていることには変わりないのだが、「パドックにいる者は皆ファミリー」のような風潮がある。実際、毎年ライダーがチームを変わることが多く、それに伴いチームスタッフも入れ替わりが激しく、色々な情報や仲間意識なども入り乱れるからだろう。
左:WSBのパドック 右:コースマーシャルにも愛用されてます

ワールド・スーパーバイクにおいて、今期のYZF-R1は大躍進を遂げたといえる。ストレートで前を行くマシンのスリップストリームから抜け出し、トップを奪うこともしばしばあり、充分な戦闘力を秘めるマシンとして印象付けていた。そして最終戦マニクールは、芳賀紀行選手のRace1で2位、Race2が4位という結果によりランキング3位で終了となったのだが、リザルト以上にその内容はとてもエキサイティングであり、YZF-R1ユーザーには是非見てもらいレースだと思った。自分の所有する同じマシンがレースの最前線で活躍している様は、それはそれは感情が入り込むこと間違いないだろうから。
マニクールのRace1はスタート後1周目に後続集団で転倒があり、マシンからオイルが流出したことからレッドフラッグ中断。(スーパーバイクではこういった「レースやり直し」し日常茶飯事であり、そのたび毎にチームスタッフは工具やスペアホイールを持ってグリッドに急がなくてはならないが・・・) 中断された段階では芳賀選手がトップをリードしていたものの、残念ながら最初からやり直し。
左:#41 芳賀紀行マシンに肉薄 右:2006 中冨伸一マシン
再スタートではその芳賀選手、何とスタートミス!13番手付近まで順位を落としてしまった・・・。しかしここからが彼の「キレたライディング」に突入モード。毎周のように前を行くライダーをパスし、5周目には5番手まで挽回。もちろんそれまでに留まらず、12周目にはトップに浮上して「しまった!」のだ。これにはサーキットに詰め掛けたファンも「やんや」の喝采 (実際はフランス語なので○○××△△!) だったのは言うまでもない。こういった素晴らしいパフォーマンスに対し、誰もが純粋に感動し喝采を送るスタイルは気持ちがいいものだ。それが同じ日本人に対してだから特になのかもしれないが。
その後も激しいバトルは続き、最終的に芳賀選手は2位でチェッカー。このレースを生で見られただけでもマニクールへ行った甲斐があったようなもの。そんな興奮と感動を受けたレースだった。
決勝レースの翌日、幾つかのチームはサーキットに居残って来期へ向けてのテストを開始していたのだが、その合間の時間帯はバイクショップが主催する走行会なるものが開催されていた。もちろんメーカー問わずだが、サーキット走行をそれぞれが無理のないスタイルで楽しんでいる様子は、ある意味日本でも目指すべきモータースポーツのあり方だろう。
スーパースポーツは近いうちに200psにも達するかの勢いを見せており、ストリートバイクとしてはあり得ないパフォーマンスであることは誰でも理解できる。しかしそれだけのパフォーマンスを所有する喜びや、有り余るポテンシャルをジェントルに乗りこなす快感もひとつのスタイルであることは間違いない。またスポーツ・ライディングで汗を流し、パフォーマンスを存分に味わうこともユーザーとして求める当然の欲求である。それを誰にも阻止されず楽しむことが出来るのがサーキットなのである。
マニクールで見かけた参加者の中には、キャンパーで家族と共に来ている人や、日常のビジネスで使う車でトレーラーを引き、まるで休日のゴルフを楽しむかのごとくサーキットを訪れている人など様々。中には仲間数人でワイワイ・ガヤガヤと集まり、数台の車に便乗してやってきている集団(これが日本のスタイルに近いか?) もいて、誰もが本当に楽しそうだった。私は数人の参加者に話しかけて見たが、楽しそうに反応してくれた笑顔からモーターサイクルを愛する気持ちは世界共通なのだと改めて実感したのだった。
左:仲間とワイワイやって来た 右:家族と共にサーキット通い
左:ストッククラスのR1 右:これもストッククラスのR1-SP
左:フランス国内のストック600 右:チャンピオン争いのヤマハ・ドイツ
左:ストッククラスのR6 右:ストック600のグリッド・ブルーのジャケットはクリスチャン・サロンさん

レースからのフィードバック

レースというものは究極のスポーツだと思っている。勝てるアイテムや要素を全て揃えられたとしても、最終的には競技選手に委ねられる。選手とて人間。人はメンタル面が大きく作用する動物であり、それは自分で完全にコントロールできるものではない。日常のトレーニングや食事、生活の全てを競技に集中するために費やし、勝つ為の努力を積み重ねる。それでもチャンピオンを獲得できるのは1年に1人だけであり、達成できなければまた1からやり直す事になる・・・。もちろん時には転倒による身体的なダメージを受けることもあり、その場合はメンタル面にもダメージを受けることにもなりかねない。これほど自分に強く、そして勝つことに対する貪欲な集中力と強靭な精神力を必要とするスポーツは多くない。
こういった究極の世界で培われるレーシングマシンは本当に美しいと感じる。それはスタイリングもさることながら、アイデアと最先端技術を組み合わせて構築される全ての構成パーツやアイテムの数々など、どんなデジタル機器であっても人の手によって作り出されている。個々のパーツ類はアイデアを試行錯誤して具体化することによってレースという究極の世界で試される。そしてそれらは研究開発の意味も込めて製作されることからコストは度外視されているものが殆どなのである。
先日のmotoGP「もてぎ」決勝日の翌日、来期の排気量が800ccに変わり、ガソリンタンク容量も21リットルへと変更されることから、新しいレギュレーションに合わせたマシンが登場した。どのメーカーも新たなチャレンジとして受け止め、外観だけでは判断付かない新技術が盛り込まれていることは間違いない。このような最先端技術開発があってこそ我々の手元に届く「物」として最終的に提供され、Newモデルから受ける感動はレーシング・シーンとシンクロし、乗りこなす喜びはテレビで見たあのシーンに自分を置き換えることとなるのだろう・・・これこそが提供される最高のプレゼントなのかもしれない。よしっ、今度の週末はサーキットに行ってみるか!
左:800ccマシンを覗いて見ました 右:テストでもお決まりのポーズ
左:居残りテストはトップタイム 右:WSB会場で見かけたリアショック

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難波恭司プロフィール

1963年3月8日生まれ
'81 18才で草レースを始める/'83 ノービスライセンス取得/'85 鈴鹿4h耐久レース 3位/'86 国際A級昇格 ヤマハ契約/'87 TZ250の開発テストに携わりながらレース参戦始まる/'92 ファクトリーマシン TZM250開発テストに携わる、全日本選手権 初優勝 250cc/'96 GP500マシン開発テスト携わる/'98 代役としてWGPのGP500へ年間 5戦参戦 鈴鹿では予選2位 決勝5位/'02 現在はモータースポーツ普及活動など、モーターサイクルの「伝道師」として活動中。特に今年は'07YZF-R1でレース参戦を計画中。