ホームプレストマガジン > 難波恭司のズバッ!とインプレッション

未来的なデザインは

その姿を生で見た時、ほぼ全員が大きな衝撃を受けただろう。シャープなデザインは過去に例がないほど押し出しが強く、いろんな角度から眺めたはずだ。もちろんデザインには好みがあり、受けた衝撃は受け入れがたい印象だった人もいるかも知れないが…。しかしその殆どは好印象だったに違いない。というのも、私の周りでは現行YZF-R1が登場した時以上の反響だったことと、即購入を決めた人が大勢いたからだ。

YCC-T (Yamaha Chip Controlled Throttle)

実際の内容は、強烈なデザインだけではなかった。'06 YZF-R6では、ファクトリーマシンYZR-M1で培われたアイテム、YCC-T (Yamaha Chip Controlled Throttle) が採用されていた!そう、「されていた」のだ。これは市販モーターサイクル初となり、フューエル・インジェクションとともに今後大きく躍進していくであろうと思われる。
この「電子制御スロットル」は、4輪ではかなり以前から採用されていた。なぜモーターサイクルではこれまで採用されていなかったのか?と言えば、重量のある4輪車は足でスロットルをコントロールするレベルだが、モーターサイクルは重量が軽く敏感に反応する上、右手でミリ単位の繊細なコントロールが求められたから困難だったのだ。コンピューターにエンジン・マネージメントをプログラミングしておき、エンジンからの情報を全て把握しつつ、ライダーの意思を瞬時にエンジンに伝える…。そういう技術は、今日のコンピューター技術があってこそ成り立ったといっても過言ではない。もちろんそれには究極のマシン、YZR-M1の技術開発の存在があることは簡単に想像が付く。だがこんなに早く最先端技術が市販車にフィードバックされたので、「採用されていた!」と驚いたのだった。

パワーユニット

このカテゴリーは全世界でもっとも親しまれているスーパースポーツの入門クラスであり、各国で盛んにレースが開催されている。もちろん開発使命のひとつに、レースで勝つことが盛り込まれていたことは想像が付く。
エンジンは’05 YZF-R6から更にショート・ストローク化され、高回転域を目指した。これにより最高出力の向上が可能になったのだが、実はエンジン回転数の上限アップは大きなリスクが伴うのだ。「エンジンパワー=トルク×回転数」なのはご存知のとおり。だから同じエンジンでも排気量を増やしてトルクを稼げばパワーは上がる。が、レースでは排気量が定められているのでそれは無理である。ではエンジン回転数を…と行きたいところだが、ピストンスピードという言葉を知っているだろうか?1分間にピストンが上下に移動するスピードを意味する。これにも理論上限度とされるスピードがあり、それを超える領域は極端にエンジン寿命を削る事になる。それと同時に4サイクル・エンジンはバルブなどの動弁系が重要でもあり、ピストンだけでなくバルブなども高回転に対応できるよう、軽量、高剛性の材質を必要とし、もちろんそれらは高価な素材となっている。
まぁこのようなことはカタログにも掲載されているのでこのくらいにするが、要するにこれら最先端の技術をこの価格でユーザーに届けている事を、私はスタイル以上に驚いているのだ!これこそが「ヤマハの本気」を感じる部分ではないだろうか。

インプレッション

高回転型となった’06 YZF-R6のエキゾースト・ノートは、アイドリングの領域からタダモノではないことを感じさせる。何だか鳴きたくなるような?独特な「こもり」具合と、それでいて甲高いサウンドは感性に訴えかけてきて、「それ行け、やれ行け」と急かされているような気にもなるが、普通に走り出すと実は穏やかだったりする。これが意外にも女性ユーザーに支持されている原因なのかもしれない。確かにYZF-R1だったら5,000rpmも回ればそれなりに力強い加速をするからなのだが、”こいつ”の場合はもっと高回転まで回さないと本領発揮にはならないので、「取っ付き易い」と感じるのだろう。 だが…と続く。
公表値127psというパワーだが、あなたは使い切る自信があるだろうか?冷静に考えてみたい。’70年代後半、ケニーロバーツ選手による3年連続世界チャンピオンを獲得していたYZR500が120ps程だった。改めて考えてみると、当時を知る人には衝撃的な事実と映るかもしれない。このことを踏まえると、現在の120psオーバーのマシンは技術革新とともに扱い易くなったが、本領を発揮した時にはやはり牙を剥くマシンであることには変わりない。
もうひとつYZF-R1と決定的な違いがある。それはR1と比べて僅か11kgという車重以上に違いを感じる軽さだ。もちろんこれは押して歩くレベルでは大差を感じないのだが、走り始めると自由度の違いを余裕として感じることが出来る。これはサーキットなどでスピードが速くなればなるほど大きな違いとなるが、逆に一般道に置き換えると自由度があって余裕のあるマシン・コントロールを可能としてくれる。実はこれが大切であり、自信を持ってバイクに乗る事は上達への近道。自由にならないバイクを不安そうに乗るよりも、思い切って乗る事でライディング・テクニックも必然と身に付くものである。スーパースポーツ入門クラスとして親しまれるのは、こういったカタログには無いバイクの持つ乗り味があるからだろう。
写真がブレてますがめっぽう速いのでカメラが追いつかないから。ってR1の回と同じだ。

遊び道具

目を引くデザインと独特なエキゾースト・サウンド。これだけでも充分満足感があるが、まだまだマニアックなアイテムも付加されている。そのひとつがスリッパー・クラッチ。'06 YZF-R1 SPにも採用されているが、それよりもR6の方が”利かせてある”感じだ。その効果を体感したいが為に、ついつい意識的に激しくシフトダウンしてしまいそうになる。こいつは本当に良い”遊び道具”なのだが過信は禁物で注意は必要。これはもちろんサーキットでの話しだが、ハード・ブレーキングのシフトダウン時、滑らせているクラッチはその必要性がなくなるとき(減速終了時)当然ながらダイレクトになる。このときにリアタイヤのスライドを誘発させる事になるからだ。一般道でリアタイヤが浮き上がるほどのハード・ブレーキングはあり得ないが、サーキットでもリアタイヤに荷重を残したブレーキング・テクニックは、スムーズなコーナーへのアプローチには大切なテクニックだといえる。
それと前後のサスペンションに奢られている減衰力調整システムだが、何と高速側と低速側を別系統でアジャストできる。遊び心?を知っていると言うか、現在のレースで使用されている最先端のアイテムが全て揃っているのだ。これを利用してサーキット走行だけでなくても、ワインディングで”ちょこちょこ”セッティングを変えて乗ってみるのもオツなもの。もちろん元のセッティングを記録しておかないと厄介な事にはなるが・・・。タイヤとともに乗り味を大きく変えてしまうサスペンションも、自分なりに気持ち良く乗れるセットアップがあり、いろいろ試行錯誤してみるのも面白いだろう。決してレース専用って訳じゃないので、ここは試しにトライしてみては?何だったら相談にも乗りましょう!

感性に訴えるもの

今回も試乗したのはスポーツランドSUGO。そのシケインでの走行ラインの自由度はR1を遥かに凌ぐ運動性を示し、タイトターンでのクイックな反応は積極的になれる。そして登りながら素早い切り替えしを必要とするS字区間でも同様で、コーナー出口に向けて思い通りの走行ライン狙える様は、「もっと速くスロットルを開けろ!」とマシンの方から訴えかけられるような気持ちになる。これこそがスーパースポーツを乗りこなす醍醐味の原点であるような気がした。もちろんこれにはサウンドが一役買っているのは間違いなく、抱え込んだフューエルタンクの下では、例のYamaha Chip Controlled Throttleが忙しそうに働いているのだろうが、エンジンに吸い込まれる吸入音はライダーの"ヤル気"を誘い、「よし次は!」と、気持ちを高揚させてくる。これだけでも充分だ。
スタイルに始まり最先端の技術とアイテム、そして乗り味は感性に訴えかけるサウンドと高揚感。もう何も言う事が無い…か。いやある!私に"こいつ"を手なずける時間をください…そんな気持ちになったな。

難波恭司プロフィール

1963年3月8日生まれ
'81 18才で草レースを始める/'83 ノービスライセンス取得/'85 鈴鹿4h耐久レース 3位/'86 国際A級昇格 ヤマハ契約/'87 TZ250の開発テストに携わりながらレース参戦始まる/'92 ファクトリーマシン TZM250開発テストに携わる、全日本選手権 初優勝 250cc/'96 GP500マシン開発テスト携わる/'98 代役としてWGPのGP500へ年間 5戦参戦 鈴鹿では予選2位 決勝5位/'02 現在はモータースポーツ普及活動など、モーターサイクルの「伝道師」として活動中。特に今年は'07YZF-R1でレース参戦を計画中。