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抜群のプロポーション

2004年にセンセーショナルな登場をした4代目YZF-R1。その先進的なデザインや、物欲を醸し出す抜群のプロポーションに一目惚れしてしまった人は多いであろう。もちろん私もその一人である。1997年のデビュー以来、その魅力は全く衰えることなく、モデルチェンジの度に熟成を増して我々に衝撃を与え続けている。日本だけではなく全世界で支持され続けているのには、デザインだけではない魅力があるからなのだろう。
昨年、2005年に創立50周年を迎えたヤマハ発動機は世界各国で記念イベントを開催した。その一環として11年振りの開催となったMotoGP・アメリカGPでは1970年代に大活躍したインターナショナル・カラーを身にまとったYZR-M1が登場し、話題をさらった。この艶やかなイエローカラーをYZF-R1に施したモデルが今年登場し、更に我々の心躍らせる事となっている。

スタイルだけではない魅力

私はここ最近、レーシングスクールや色々なサーキットイベントだけでなく、全国各地のバイクショップを訪れる機会が多い。仕事でありながら、ショップに集まるユーザーとのツーリングは気持ちをリフレッシュさせ、各地のワインディング・スポットを駆け抜ける時間は仕事を忘れて「素」に戻っている自分がいることに気付く。「これじゃイカン・・・」と思いつつも、「日常を忘れた時間」に連れて行ってくれるバイクの存在は、自分にとって無くてはならないものなのだと改めて感じさせられる。
話は変わるがYZF-R1を代表とするスーパースポーツは、ハッキリ言って一般公道では宝の持ち腐れだと思う。高速道路だって法定速度100km/h・・・。ワインディング・ロードを流すように走ったところで、”こいつ”の持つポテンシャルの10%にも満たないかも知れない。もちろん中には交通法規を全く無視してしまう人たちもいるだろうが、ヤマハのフラッグシップであるYZF-R1に乗るユーザーには、あくまでも「ジェントル」に、そして大人の振舞いで乗ってもらいたいと願っている。だって”こいつ”の持つポテンシャルは説明しなくても分かっているもの。人に見せびらかすものではなく、時と場合を判断できる人にこそ似合う相棒なのだから。
そんな私の希望(?) を知ってか知らずかYZF-R1ユーザーに会って話をすると、その殆どがとても紳士・淑女的な人が多いような気がする。さすがに女性ユーザーは一部だが、”こいつ”に魅力を感じて購入に踏み切った人の満足感は特別であるように感じた。その筆頭はスタイルであることは想像付くところだが、実はもっと潜んだ魅力であるエンジン・パフォーマンスに付いても、殆どが同一意見であった。それはカタログ・データーでは表せない感動的なものであり、並列4気筒が持つスムーズなフィーリングからスロットルのひと捻りで異次元空間に誘う加速感は、YZF-R1が放つ特別な世界。実はこの感覚が人の感性に訴えかける「エキサイトメント」なのだろう。こういった最高のパフォーマンスを体感するにはやはりサーキット。毎月とは行かないまでも、年に数回程度でも良いから、何にも気兼ねすることなくサーキットで思う存分スロットルをワイドオープンしてもらいたい。そんなライフスタイルが似合うと思わないかい?

インプレッション

現行のYZF-R1「5VY」に私が初めて試乗したのは、発表前のヤマハテストコースだった。長い間テストやレースを共にしたYZR500に似たライディングポジションは身体に馴染みやすく、エンジンパワーや特性もYZR500と何処となく似たエキサイティングなものだった。それがゆえに全く違和感なくテストコースを疾走することを可能とし、3速で立ち上がる200km/h オーバーの最終コーナーを、YZR500と同じようにカウンターステアでブラックマークを残しながら立ち上がる様には驚き、その時の正直な印象は、「こんなのを公道マシンとして売っていいの?」というくらい強烈だったことを覚えている。
今年のモデルは若干だが乗り味がリファインされている。その内容はメインフレームの剛性やリヤアーム長、フロントフォーク・ブラケットなどにも及び、変更点としては決して少なくない。これほどまでにも手を加えられたことから、’06 YZF-R1は開発陣にとっても思い入れの強いモデルであることが伺われる。もちろんスーパースポーツのフラッグシップとして相応しいエッセンスを盛り込むことを目的としているはずだ。
良くみると写真が少しブレてますが、これは何しろめっぽう速いのでカメラが追いつかないから。

私がレーシングマシンのテストライダーとして開発に加わっていた当時、最も重要視していたポイントは「攻める気になれるか?」という点だった。頑張ったら頑張っただけタイムに反映される・・・そんなマシンを理想としていた。ライダーが意のままにコントロール出来たときの充実感は、そのスピード領域は違えどもレーシングマシンも市販車も同じだと思っている。また「完成終了」がないのも開発の仕事であり、これもファクトリーマシンであろうと市販車であろうと同じように進化し続けるものなのだ。
ご存知と思うが、究極のモーターサイクルであるMotoGPマシンの最大の課題は前後タイヤのトラクションである。ブレーキングからコーナーへのターンインではフロントタイヤを最大限利用し、コーナー出口ではリアタイヤをグリップさせ、路面にパワーを伝えることでトラクションが生まれる。これらにはサスペンションの働きが重要であるのは当然だが、前後サスペンションを支えるメインフレームなどシャシー構成パーツ全体も大きな役割を担っている。YZF-R1の場合も同様で、これら全てのバランスが最終的な”乗り味”となっていることは言うまでもなく、「もっともっと」と開発陣が突き詰めた形が今回の「作品」だといえる。
フロント・ブラケットの形状変更は剛性アップを目的とされ、反対にメインフレーム鋳造パーツの肉薄化は「しなやかさ」をもたらし、伸ばされたリヤアーム長と相まって穏やかなリア・トラクション特性を狙っていると考えられる。実際には’05モデルと乗り比べないと分からないレベルだと考えるが、日夜最高の乗り味を求める開発スタッフ陣の”こだわり”は、ユーザーに最高の形で提供されていると思って間違いない。

YZF-R1 SPとは・・・

私は昨年、ヤマハモーター・フランスチームからチーフ・メカニックとしてワールドスーパーバイクに参戦していたが、その母体はレース用キットパーツ開発を担っているチーム。レース現場で試行錯誤されていくYZF-R1は、基本的に市販車をベースにチューニングされ、パワーは200psオーバーに達する。またレース現場では様々なコースに対応したセッティングが施され、厳しいレースを戦っていくこととなる。このようなレース現場で採用されたパーツなどが、ある意味究極のマシンとして構成されているのだが、それらをストリート用にアレンジして作られたのが今年限定で発売された「YZF-R1 SP」というモデル。日本でも運良く手に入れることに成功したユーザーと話をする機会があるが、どの人も満足この上ない声を聞く。そりゃそうだ!だってそのままでもレース参戦できるポテンシャルを秘めているのだから・・・。
YZR-M1採用と同一デザインのマルケジーニ鍛造アルミホイールを採用し、フロントフォークはOHLINS。この組み合わせはスーパーバイクだけでなく、レースでは定番中の定番。昨年もサーキット毎に幾通りものセッティングを試し、現場で養われたノウハウをストリートからレースまでもカバーする内容でセットアップされている。そしてもうひとつ隠れた存在があり、リア・サスペンションのリンク機構が、車高アジャストを可能にするパーツへと変更されている。実はこのパーツも昨年のレースで使用していた「そのもの」であり、市販車では車高調整が簡単には行かないところを、このパーツで随分と助けられた。
それとスリッパー・クラッチ。レースでは定番と成りつつあるアイテムのひとつ。実際の作動は極僅かに留められているが、それはストリートでの耐久性を考慮したものであり、もしサーキットユースを考えるならば、その作動量を任意に設定できるレース用のキットパーツも用意されている。
こういったパーツまでも採用されているとはある意味驚きである!いや冷静に考えてみれば大変リーズナブルだともいえるが、残念ながらもう入手は不可能・・・。もしあなたがYZF-R1 SPを運良く手に入れた人であれば、是非大切に乗って頂きたいマシンです。
これは去年のモーターショウに展示されていたYZF-R1SP。形は同じでも中身は別物と云っていい。

YZF-R1の尽きない魅力

日本ではなかなか見られないのだが、「スーパーストック1000」というレースがアメリカ、ヨーロッパでは盛んであり、改造範囲の限られた「溝付きストリートタイヤ」で行われる。実はこのクラスで大活躍しているのがYZF-R1だったりする。元々持っているポテンシャルが問われるレースで活躍しているということは・・・それだけでユーザーの心をくすぐってくれるものだが、それだけ世界中のYZF-R1ユーザーを満足させ、それだけのポテンシャルのマシンを保有している喜びをも与えてくれる。エキサイトメントはあなたの心に秘めたまま、あくまでも振舞いはジェントルに・・・。

難波恭司プロフィール

1963年3月8日生まれ
'81 18才で草レースを始める/'83 ノービスライセンス取得/'85 鈴鹿4h耐久レース 3位/'86 国際A級昇格 ヤマハ契約/'87 TZ250の開発テストに携わりながらレース参戦始まる/'92 ファクトリーマシン TZM250開発テストに携わる、全日本選手権 初優勝 250cc/'96 GP500マシン開発テスト携わる/'98 代役としてWGPのGP500へ年間 5戦参戦 鈴鹿では予選2位 決勝5位/'02 現在はモータースポーツ普及活動など、モーターサイクルの「伝道師」として活動中。特に今年は'07YZF-R1でレース参戦を計画中。