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ツアラーの魅力

本来モーターサイクルは自由な乗り物。行きたい時に行きたいところへ行きたいように行ける・・・そんな道具だと思っている。今では高速道路も整備されており、ハイ・アベレージ・スピードでの移動が可能となっているが、乗っている人間はどうだろう? 安全装備は見に着けられたとしても、移動時間に対する疲労度は昔と変わらないはずだ。いや平均スピードが高いことから、その風圧などによる疲れは大きいともいえる。そういったライディングの疲労を最小限に抑え、快適なツーリングへ誘ってくれるのが「ツアラー」の存在だ。 ツアラーを求める人達は、どのような点を重視しているか? それはスタイル? エンジン性能? 燃費? 扱いやすさ? 人それぞれ求める順番は違うはず。現在のモーターサイクル技術は非常に高度化しており、性能面での優劣は付け難いのだが、逆に考えれば「何も感じないバイク」こそ快適性に優れているといえるのではないだろうか?

話は逸れるが今年の2月、ある人を通じでスイスのFJRクラブのメンバーからUAE(ドバイ首長国連邦) にあるサーキット・トレーニング・インストラクターの依頼を受けた。行ってみると平均年齢が50歳程度という高齢? ながら、みんなバイクに跨れば少年のような顔を持つことに驚いた。お揃いのジャケットやヘルメットで決める夫婦の参加があったり、日本にはないモータースポーツ文化を肌で感じることとなった。
彼らに聞くと、スイスではこの時期の気温はマイナス。これでは大好きなバイクも乗ることが出来ない。だから真夏のUAEに来て思う存分楽しむ計画なのだとか・・・。確かに職業を聞くとお医者さんや会社の社長など、リッチな層が多いのだが、それぞれが自分のライフスタイルの中で無理なく楽しんでいる姿が印象的だった。そういう人達に愛され親しまれているFJRなんだな・・・と、その存在を改めて認識した。

彼らは普段、ヨーロッパ中をツーリングしていると聞いた。一年間に走る距離も、多い人で40,000km以上。中にはFJRを3台乗り継いでいたり、YZF-R1などのスーパースポーツと合わせて所有している人もいて、またまたビックリ!
そして年に数回は危険回避などのトレーニングや、ライディングスキル・アップを目的としたサーキット走行を開催していると聞いた。モーターサイクルを愛し、生涯に渡って楽しんで行く姿はとても参考になった。それよりも、とにかくFJRクラブのメンバーは年齢を感じさせないくらいパワフルだったが・・・。
サーキットで記念撮影。ビシッと揃えててめちゃくちゃかっこいい!

インプレッション

本題のインプレッションに移ろう。ヤマハのフラッグシップ・ツアラーとして2000年に登場したFJR1300は、今回ビッグマイナー・チェンジとも言うべき改良が施されて登場している。そのNewマシンFJR1300ASに乗ってみた印象を「飾らない言葉」で伝えようと思う。
第一印象は「やや大柄」。これは輸出モデルであることから想定の範ちゅう。ヨーロッパ製のスクーターに乗った場合、たとえ50ccでもその作りの大きさに驚くのだが、FJR1300ASは日本製であってもヨーロッパのマーケティングを主に作られているので、他の国内モデルよりもポジションが大柄なのは理解できる。だが諦めることはない。FJRはシート高さの調
整機構とハンドル・バーを前後に調整できることから、結果として[ラクチン]なポジションを作り出すことが出来るのだ。
通常質感も求められるモデルのステアリングは、アルミ製などで凝ったスタイルとなっている場合が多く、ポジションの変更は自由度がなくて諦めている人も多いはず。しかし前記したシート高を調整できる「ハイグレード」な機構は、長時間のライディングにも「お尻が痛くならない」ポジションを作り出すことを可能とし、ハンドルとの兼ね合いを考えつつ、自分なりのベストポジションを見つけ出すことはツーリング時の楽しみのひとつになるだろう。
左:クラッチコントロールシステム、YCCS。右:左ステアリングにあるスイッチでシフトチェンジ。

新機構のシフトスイッチ!

このモデルは”Yamaha Chip Controlled Shift” というシステムが追加されている。簡単に言えば最近のスポーツカーに搭載されているステアリングのスイッチでギアーシフトするシステム。もちろん私は始めて乗ったのだが・・・走り始めようとクラッチレバーを握ろうとしたら「ない!!」そうクラッチレバーさえ存在しないのだ。恐る恐るシフトペダルを使ってギアーをローへ。「あれっ? 飛び出さない?」。当たり前なのだが、ライダーが行うべきクラッチ操作の全てを電子制御で行ってくれることに驚きと感動、そして不安感が交錯していた。
ハンドルの左にあるスイッチでシフト操作が出来ることを知っていたが、もちろん初めての場合は誰だって半信半疑だ。私の場合はクルクルと駐車場を数周した後、無謀にもいきなりサーキットへ連れ出してしまった。もちろんツアラーであることは忘れていなかったが・・・。
コイツでサーキットってのはどうよ、と最初は思ったさ。

ピットロードで5速トップギアーまでの操作を試み、その後ローギアーまでのシフトダウンを確認し、その後は全開だ!こんな試乗テスト、役に立つのか?なんてことは考えず、いろいろなシュチエーションを想定してシフトを繰り返した。スロットル全開のままレブリミット付近まで加速し、スロットル全開のままハンドルのスイッチでシフトアップ! 僅かにクラッチを滑らせている時間があり、その瞬間は駆動力が落ちる。そしてまた鋭い加速を開始する・・・充分速い。まぁそんな非現実的な使い方は普段しないだろうが、1,300ccという排気量から134.4 N・mという強力なトルクを発生するエンジンは、どの回転域からでも不満のない加速力をもたらし、ストレスを感じることはない。
今度はヘアピンの進入。ブレーキングを開始し、これまた恐る恐るハンドル左のスイッチでシフトダウンを開始した・・・ん、ショックがない?これは下手なクラッチ操作より優秀だ♪減速中にマシンが不安定になる可能性が低い。
左:シフトダウン時のクラッチの働きは実にスムース。右:見よこの走り。タダモンじゃないぞ。

シフトアップよりダウン側の制御が良く出来ている気がしたので、次はイジワルをしてみた。そう、それはハイスピードでのシフトダウンという無謀なものだったが予想通り、スピード・センサーからの信号で、いくらシフト操作をしても適切なスピード域でないとシフトしないようプログラムされていた。私はこれに安心したのか?ピットロードに戻り一時停止、そして普通に発進したのだが、気付くと2速だった・・・。しかし何もためらいもなくクラッチはコントロールされ、スムーズにスタートしていた。これには感心。ただし、初めてハンドルのスイッチでシフト操作をしようとした時、「ビーッ」ってホーンを鳴らしちゃったのはご愛嬌。スイッチの位置に関しては、指の短い(指だけじゃない・・・)私にはチョット不自然だったな。

試乗を終えて

今回試乗したのは、ほんの僅かな時間。本来ならば1,000kmくらいは乗らないと、そのバイクが持つ乗り味や、色々な場面での操作フィーリング、そして開発者のコンセプトなど実感することは難しいと考えているが、また機会を見てジックリ乗ってみたいと思う。
走行中、ウインド・プロテクション・シールドを立てたり寝かせたり、スーパースポーツにはない快適装備に感動し、これだったら北海道の〜とか、阿蘇山の〜など、今までツーリングに行った色々な景色が思い浮かび上がってきた。
「あぁライディングに集中してなくて良いんだ・・・」なんていうイージー・ライディングを体験してしまうと、そのぶん周りの景色やタンデム・パッセンジャー(この場合は彼女や嫁さん)との会話を楽しめるんだな・・・と、何も感じさせないツアラーの魅力にはまりそうになった。この良さをヨーロッパの人たちは知っちゃっているんだな・・・。

難波恭司プロフィール

1963年3月8日生まれ
'81 18才で草レースを始める/'83 ノービスライセンス取得/'85 鈴鹿4h耐久レース 3位/'86 国際A級昇格 ヤマハ契約/'87 TZ250の開発テストに携わりながらレース参戦始まる/'92 ファクトリーマシン TZM250開発テストに携わる、全日本選手権 初優勝 250cc/'96 GP500マシン開発テスト携わる/'98 代役としてWGPのGP500へ年間 5戦参戦 鈴鹿では予選2位 決勝5位/'02 現在はモータースポーツ普及活動など、モーターサイクルの「伝道師」として活動中。特に今年は'07YZF-R1でレース参戦を計画中。