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「難波恭司のズバッとインプレッション2013 / FJR1300A」
「ツアラー」というカテゴリーは、余裕のある大人の世界でもあるだろう。日頃は時間に追われ、会社⇔自宅を繰り返す毎日。そんな窮屈さから開放され、自分時間を大切にする・・・「自分自身をリセット」し、そして日常に戻っていく。そういう「理想的な生活リズムをもたらしてくれるモーターサイクルライフを送りたい」と思っている人は少なくないだろう。
[難波 恭司:2013.2.20]
FJRらしさを継承する顔つき

日常から非日常への誘い

 バイクに興味を持ち出した10代の頃、そしてバイク免許を取得し、まるで「何処でもドア」を手に入れた気持ちになったあの頃、道が続く限り「自力」で移動できる喜びを感じ、夢を膨らませたものだった。そんな若い頃描いた夢は、社会の荒波に揉まれいつしか薄れていっていたような気がする。”現実”というものに遭遇し、ひとりではどうにもできない”ジレンマ”や、押し潰されそうになる責任やプレッシャー。日常生活には現実しか存在しないからかもしれない・・・

 今回モデルチェンジとなった”ヨーロピアンツアラー ’13 FJR1300Aを眺めてみると、全体のフォルムは今までの 「FJR」 としてのデザインを継承しているが、細部にわたりリファインされ、顔つきもエッジの利いたシャープなイメージでスポーティーさが増している。試乗したモデルは ”ベリーダークオレンジメタリック1” という名称のカラーで、わかりやすく言えば「こげ茶メタリック」。このカラーがとても質感が高く、’13 FJR1300Aのエッジの利いたデザインと相まって、コントラストを表現することからとても綺麗に映る。特に日差しを浴びたときには、そのコントラストが強調され優雅ささえ感じさせる。

 今回も当然だが、いつもの通り何も事前調査もせず、ガソリンだけ満タンにして走り回った。以前のモデル FJ1300AS (オートシフター”Yamaha Chip Controlled Shift”付き)にも試乗したことがあるが、今回プレストが導入するモデルは通常のクラッチレバーにてシフト操作するモデルだ。さて、’13 FJR1300Aの進化がどのようなものか?お伝えしよう。
左:ヨーロピアンなたたずまいにマッチする 右:写真だと深い色合いが出にくいな…

まずは街中から郊外へ

 ストリートでは信号のたびストップアンドゴーを繰り返さざるを得ない。信号が青になる前にクラッチを切り、ローギアに入れ発進の準備をするのだが、スーパースポーツモデルのような”ガチャンコ”という衝撃に対し、コイツは大幅に軽減されている。クラッチを切り一呼吸置いてシフト操作をした場合、音すら聞こえないくらいスムーズに吸い込まれ、シフトは完了する。なんでもない事かもしれないが、トランスミッションのフリクションロス軽減や、組み合わされる各ギア間の形状、クリアランス、そしてシフトストローク、節度、剛性面など、これら全てが最適化されることで得られる操作感は、関連するパーツが多くなればなるほど相当な時間をつぎ込まないと達成できないことだ。使う側には何でもないことだが・・・個人的には「開発陣の思い」を感じた瞬間だった。
 車両装備重量は軽くない。だがこのクラスにしてみれば標準的レベルで、何より走り出したとたんコイツは軽快感を演出してくる。特に車線変更での反応や、スロットル操作に対する加速、減速の気持ち良さは、後で確認したカタログスペックでは想像出来ないレベルのスムーズさ、そして操る喜びとでも言おうか、とにかく従順。アクセル操作の適切な軽さも影響しているかもしれない。とにかく街中でストップアンドゴーを繰り返してもストレス・フリーなのだ。そしてそのまま、ご機嫌♪気分で高速道路へ進入した。
左:ストレスのないシフト 右:クラッチカバーと一体感のあるサイド
 高速道路はまさにコイツの真骨頂。試乗した日は外気温も低く、冷たく強い風が吹き付ける状況だったが、標準装備のグリップヒーターの温度設定は”中”で充分。ウインドスクリーンも、走行中スイッチひとつで適切な高さに調整可能。寒さを大幅に軽減してくれる。そう ! 鼻水ではなく”鼻歌♪”が出てくるほどの快適さ。途中の休憩でSAに泊まっているほうが寒いくらいだった。もちろん追い越し車線へのレーンチェンジや合流のための加速など、街中で感じた気持ち良さは更に高まり、コイツの主とするシチュエーションであることが実感できる。同時に”振動”という不快感も、常用する80km/h ~ 100km/h 程度では殆ど感じることなく、高速巡航しているときは本当に快適である。”当然”といえば当然だが・・・
グリップヒーターはマルチファンクションディスプレイで設定可能
 今回新たに採用された “YCC-T”( Yamaha Chip Controlled Throttle ) は、YZR-M1 に代表するレース現場や、YZF‐R1、R6で採用され、熟成も進められてきた”フライ・バイ・ワイヤ”の技術である、電子制御のスロットル。これに加え、定番の”トラクションコントロール”や”D-MODE”は、まさしくこの”YCC-T”があるからこそ生きてくる装備だ。これらはライダーのアクセル操作に対し、エンジン回転数や実際のスピード、タイヤのグリップ状況など、各センサーの数値化された情報を瞬時に演算処理。全くタイムラグを感じさせないまま、快適なライディングを提供してくれる。特に加速時、極小スロットル開度からワイドオープンする場面など、138N・mに高められたエンジントルクでありながら、全く荒々しさを感じさせず、エンジンの欲しがるまま綺麗に加速力が盛り上がる印象。ガサツ感がない。こういった演出も、実は開発陣の見えない努力が詰まっているように感じる。コイツにふさわしいエンジン特性を追い求め、あるときはパニアケースに荷物満載。そしてタンデムシートに大切なパッセンジャーも乗せていることを踏まえると、ただ”ありったけのパワーを引き出すことがモーターサイクルの楽しさ全てじゃない”ことを知っているからだろう。
左:前面にはいつものライト、ウインカー、ホーンなどに加えクルーズコントロールスイッチも 右:背面にはメニューを呼び出すためのスイッチが。