ツイスティロードにおけるエキサイトメントを追求して1998年に登場し、世界中にセンセーションを巻き起こしたYZF-R1が、レース参戦とサーキット走行を主眼に据え、YZR-M1の思想を体感できる「サーキット最速」を具現化する「High tech armed pure Sport」をコンセプトに、ライダーが走りに集中できる全く新しいかたちの"ピュア"スーパースポーツモデルとして生まれ変わった。
新設計の998cc水冷4ストローク直列4気筒・4バルブエンジンは、最新の生産/軽量化技術と徹底したロス馬力低減、吸入空気量のアップにより更なる進化を遂げている。ボア・ストロークを79×50.9mmとショートストローク化、吸排気バルブは吸気33mm(2014年モデル比+2mm)、排気26.5mm(同+1.5mm)と大径化、新設計のポート形状、バルブ挟み角を詰めることによるペントルーフ型燃焼室のコンパクト化などにより、圧縮比13.0:1の高圧縮化を実現。
また、高回転エンジンに対応するため、吸排気バルブの駆動にはYZF-Rシリーズとしては初となるロッカーアーム駆動方式を採用。ロッカーアーム摺動部にはDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施し、低フリクション化することで優れたバルブ追従性を確保している。
コンロッドには市販製品として世界で初めて「FSチタンコンロッド」を採用(FS : Fracture Split 破断分割式)。鉄と同等の強度を持ちながら比重は約60%と軽く、高回転時にピストンの慣性力で大端部の真円が保たれなくなるクローズイン傾向を抑止して、軽量化による馬力損失の低減、高回転化、高精度な大端真円度確保などのメリットを生み出している。
ピストンは、裏面にボックス形状の「ブリッジ」を設け、またブリッジ天面側への加工処理によって剛性維持と軽量化を両立させ、往復運動での馬力低減、高回転での信頼性を確保したボックスブリッジ型アルミ鍛造ピストンを採用し、軽量化とフリクションロス低減を進めている。
シリンダーにはヤマハの4気筒エンジンでは初となるオフセットシリンダーを採用。燃焼により最もシリンダー内に圧力がかかる時にピストンとコンロッドの傾きが少なくなり、常用のピストンスピードでも壁方向への圧力が最小となるようなオフセット値とすることで、燃焼で生まれる力を効率よく引き出している。
市販二輪車では世界初となる、3次元的な車両の動きを検知する6軸制御センサーIMU(Inertial Measurement Unit)を搭載。
CPUが各センサー信号及び車速センサー信号をもとに高速演算を行い、高精度なバンク角検出と後輪の横滑りの検出を実現している。IMUで得られた走行中の車両姿勢情報は、CAN通信(Controller Area Network)でECUに送られ、演算により燃料噴射量(INJ)、点火時期(IGN)、スロットルバルブ開度(ETV)の各マップを補正して行い、最適なエンジン出力として反映される。
そのECUにはレース実戦における競争力を高めるため、バンク角の深さも反映した新型TCS(トラクションコントロールシステム)、滑らかな旋回性能をサポートするSCS(スライドコントロールシステム:MotoGPでは2012年から導入、市販二輪車では初)、ウィリー等によるタイムロスを抑止するLIF(リフトコントロールシステム)、俊敏なスタートダッシュを支えるLCS(ローンチコントロールシステム)、アクセル全開でも滑らかにシフトアップ操作を支援するQSS(クイックシフトシステム)の5種の制御システムを搭載し、相互に連動してライダーの運転操作集中力を支援することで、マシンのハイポテンシャルを効率よく引き出すことが可能となった。なお、個々のシステムは走行環境やライダーの好みに合わせ、ユーザーの選択により介入レベル調整、及びON・OFF設定が可能である。
また、サーキット走行でのポテンシャルをさらに引き出し車体の挙動特性を制御するERS(Electronic Racing Suspension) を搭載したÖHLINS製サスペンションをYZF-R1M専用に装備し、走行状況に応じて前後サスペンション伸・圧減衰力の統合制御を行なう。このERS は、「オート」と「マニュアル」の2種類の操作モードを選択でき、そのモードの中でさらに3種の走行モードの選択ができ、計6種類からライダーの好みや走行環境に合致したモードを選択できる。
2014年モデルまでのYZF-R1に搭載されているD-MODEはさらに進化し、ライダーの好みや走行環境に応じて走行モードを左右のハンドルスイッチで選べるPWR(パワーモード切替えシステム)とYRC(ヤマハライドコントロール)を採用。
PWR は、アクセル開度に対するスロットルバルブ開度マップを4つ備えており、好みや走行環境に応じてユーザーが選択できる。
YRC は、各制御を織り込んだPWR 各モードを、それぞれ独立したセッティングデータとしてメモリーするものである。「A」「B」「C」「D」の4つのパターンとしてとして保存される。 マシンに装備された電子デバイスとライダーとのインターフェイスとして、各表示機能を集約し優れた視認性の4.2インチ全透過型のTFT液晶表示のデジタルメーターを採用している。メーターの背景色はホワイトバック、ブラックバックから選択可能で、表示モードは「Street」と「Track」の2種類から選択が可能となっている。
サーキット用途においてポテンシャルを最大限引き出すため、チタン、マグネシウム、アルミなどを適材適所へ投入し、軽量化技術による車体レイアウトの相乗効果と合わせ徹底的な軽量化を推進。装備重量は201kgを達成している(現地スペック)。
ホイールは量産市販車初のマグネシウム鋳造ホイールを採用。フロント単品で2014年モデル比530gの軽量化と4%の慣性モーメント低減、リヤ単品で340gの軽量化と11%の慣性モーメント低減を実現。
フレームは高速安定性・旋回性と旋回中のライン自由度拡大の両立、コーナー脱出時の駆動特性の向上を図った、軽量で優れた強度・剛性バランスを備える新設計のアルミ製デルタボックスフレームを採用。リヤフレームはマグネシウム製、アルミ製リヤアームは上向きトラス形状とすることで、排気系の十分なチャンバー容量確保に貢献している。
ブレーキは、軽快なハンドリングにも寄与するφ320mmダブルディスクと新設計モノブロック・アルミ製4ピストン2パッド対向型キャリパーをフロントに、良好なコントロール性を備えるφ220mmディスクとアルミ1ピストンピンスライド方式キャリパーをリヤに採用している。
軽量化とライダーアクションの自由度拡大のため、フューエルタンクはニーポケット部を大きくえぐり、アクションライドに適したデザインである。
フロントカウル&スクリーンはYZR-M1をイメージさせるデザインで、ハイスクリーンを装備しサーキットでの超速度域での走行風のライダーへの影響を抑えている。
また極力マシン中央に寄せて配置されたヘッドライトとポジションライトには、省電力で軽量、照射性に優れたLEDを採用。イグニッションオンで瞬間的に点灯、エンジン停止時は生命体が眠りに入るかのごとく徐々に減光して消灯する高輝度LEDポジションランプなど、従来にない新しいフェイスデザインを具現化している。
ライダーシートはレース参戦の旋回時に求められる体重移動と乗車姿勢の自由度を確保するために幅広タイプを採用。YZR-M1に通じるデザインの流れを汲み、フレームの左右ステップ周りにはくぼみがつけられ、深いニーポケットをもつタンクと相まって機敏なステップワークと徹底的なライダー・マシン一体感が得られる。
このほかレース参加時に取り外しても、ライダーへの空力影響が殆どない設計のフラッシャーがビルトインされたミラー、軽量設計コンパクトラジエター、優れた放熱性と十分なバンク角確保に貢献するアルミ製アンダープロテクター、軽量CFRPリヤマッドガードなど、全てがレースレディーを追求した設計となっている。